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ドリンク・カウンセリング

   

方々で乱暴を働き、人を泣かせるような暮らしをしてきた品田 周一だったが、年齢や不摂生もあり、若い頃のようには、周囲から恐れられなくなっていた。

収入も這い上がるアテもないまま、品田がバーで安酒を煽っていると、見慣れない若い女性、佐々木 吉美が隣に腰かけ、「品田 周一さんね」と、話しかけてきた。

吉美は「ドリンク・カウンセリング」というサービスをしているらしい。カウンセリングに酒とコミュニケーションを加え、効果を高めるという方法を模索しているようだった。

そして、「ドリンク・カウンセリング」の効果を証明していく以上、酒に強い人と話をしてみたいということで、品田に誘いをかけてきたのだった。

暇を持て余していた品田は、二つ返事で、美女と一緒のタダ酒にありつける期待にワクワクしながら、吉美が経営するというクリニックに向かったのだが……

 

 がつり、と、鈍い音が響いた。
 グラスとカウンターテーブルが衝突したのである。
 グラスを持っていた品田 周一は、自分の震える指を、忌々しげににらみ付け、叫んだ。
「ちっ、やっぱりだ。安い酒じゃ手も上手く動かねえ。おい、オヤジ、もう一杯だ!」
「か、勘弁して下さいよ、品田さん。体に悪いですって。それに……」
 初老のマスターは、途中で口を閉じたが、彼の言おうとしたことが、品田自身、良く分かっていた。
 呑み代のツケが、十万円以上もたまっているのだ。しかも、今、財布の中には三千円しか入っていない。
「るせえっ、あんた、いつから俺に意見できるほど偉くなったんだ。いいから、注いでくれ。呑みたい気分なんだよっ!」
 頭の片隅では、理不尽な要求だと実感しつつ、声を荒げる。
 すると店主は、心底迷惑そうな表情を隠さず、酒を出してきた。 品田は、思わず舌打ちした。
 こんな態度で給仕されては、安酒がますますまずくなる。
(ざけやがって、どいつもこいつもっ!)
 品田は、不満と一緒に酒を呑みこんだ。
 もう十年も前だったら、こんな安酒場の店主に意見されるなんてことはなかった。
 一にらみしただけで、不良たちは震え上がり、普通の連中は逃げ出していったものだ。
 怖い者知らずの暴れ者、「ボコりの品田」の異名は、この街に知れ渡っていたのだ。
 だが、四十代も半ばを過ぎると、体力もめっきり衰えてきて、昔のようなケンカはできなくなった。
 さらに、いくつかの怪我をし、親友だったワル仲間が「仕事」から足を洗ったことなども影響し、品田は完全に周囲から無視される側の存在になってしまった。
 かつて、一声かければいくらでも金を融通してくれた後輩たちも、今ではすっかり真面目になってしまって、品田とは関わりすら持とうとしない。

 

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