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歴史・時代

黒い鷹・尼子秘帳 第三話

   

 江戸の風景は、歌川広重の『名所江戸百景』を参考にしました。

 

 黒鷹精久郎は、塚原道場を出た後、大山新八郎と対決をした野原へ、行った。
 あの日の夜の雨と風で、対決の痕跡は、何も残っていない。
 だが、周囲の位置感覚は分かる。
 対決の時は、相手との位置関係に注意をしていた。
 注意しすぎであった。
 周囲に、もう少し、気を配るべきであった。
 雑木林を見る。
 矢を射った者(複数かもしれないが)は、雑木林に身を潜めていたのであろう。
 あの時に感じた、奇妙な気配が、それだったのだ。
 荒れてきた天気に邪魔されて、気配を正しく読みとれなかった。
 対決に勝って、気が緩んだか。
 それとも、江戸の空気に幻惑されたのか。
 甘かった。
 雑木林の中から、武士が一人、出てきた。
 黒紋付き羽織で博多帯の着流し。
 髪は小銀杏。
 奉行所の同心と分かる姿形である。
 黒鷹精久郎が、言った。
「同心、芥川行蔵氏ですな?」
「いやぁ、さすがですな」
「ここに来ることは、塚原千秋殿が話されたのか? そうではないだろう。岡っ引きが道場を見張っていた?」
「ご明察。塚原千秋殿に聞いたこともありますよ。調べるのが役目ですから」
「私のことも調べた?」
「ええ。
 水口の自席家老の家の三男。
 若い頃から剣術の麒麟児と言われる。
 流派は、塚原卜伝の新当流の流れをくむ一刀流。
 その縁で塚原道場の大山新八郎と試合をしたが、引き分けた。
 それが十年前の話ですな。
 その決着をつけるべく、ここで立ち会った……」
 黒鷹精久郎は、黙っていた。
 芥川行蔵は、笑顔で話を続けた。

 

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