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年末恒例特番 怪盗VS探偵

   

とある豪邸に怪盗からの予告状が届き、館の主人は怪盗を良く知る探偵に対策を依頼する。探偵は、自らの知識を活かして、館の中に宝物を隠させ、自らも館に詰めて、襲来に備える……

そんな、「怪盗対探偵」の熱いバトルの様式を、小説などの中だけではなく、リアルに再現、保存しようというファンもいる。今でも、ある館を舞台に、探偵役と怪盗役とが競い合う、恒例行事のようなやり取りが、年に一、二度行われていたりもする。このイベントは、ことのほか好評で、今では年末恒例のTV特番として扱われるようにまでなっている。

探偵役の宮井 恭司は、気合いを入れて、対決に臨んだのだが、いつまで経っても「怪盗 水月」が現われない。彼が出て来ないことには、イベントは成立しないし、年末特番も大失敗となってしまう。

果たして、イベントは無事に開始されるのか? そして、勝負の結末はいかに?

 

「宮井さん、護衛の配置、完了しました。この館には、誰も入ることはできないでしょう」
 宮井 恭司は、館の護衛隊長の声を聞き、小さく頷き、葉巻を一つ吸って、口から煙を吐き出した。
 だが、厳しい表情は崩さない。
「しかし、相手は『怪盗 水月』。その名の通り、水に浮かぶ月のごとく、掴みどころのない男です。油断なさらぬよう」
「そ、それは分かっておりますが。……いえ、失礼しましたっ。部下に今一度の集中を命じます」
 深々と頭を下げ、やや慌てたような雰囲気で隊長が外に出ていくと部屋の中の空気がいっそう張り詰めていく。
 宮井は、「来るか……」と呟き、再び葉巻の煙を吸い込んだ。

 築百年を超える古びた洋館を、制服を着た警備要員が取り囲んでいて、辺りからは、普段の閑静な様子は失われている。
 いや、囲んでいるのは警備の人間だけではない。
 警備員が作り出す輪の外側に、ラフな服装で様々な機材を持った人の集団が作り出した大きな輪があり、その外側に、さらに大きく、雑然とした人の輪ができている。
 一番外側を構成しているのは、老若男女を問わない色々な人たちで、二つ目までの輪のような緊張感はない。
 そう、今日行われるはずの「怪盗襲来」は、周りに広く知られているイベントなのだ。
 年に一度か二度、この館を舞台に行われるということで、地元としては、ちょっとした町おこしのお祭みたいな形になっている。2015年も過ぎようとする今でも、人気は衰えることはない。

 このイベントを始めたのは、宮井の祖父だった。
 無類の探偵小説ファンで、実際に探偵としての修行もしたことがある祖父は、戦後の高度経済成長の中で、現実の探偵業が、かつてとは大きく変わりつつあることを憂いていた。
 業務が先進化するのはいいとして、昔ながらの、そして、自分が好きな「様式」が失われていくのはしのびない。
 現実が変わっている以上、フィクションの世界でも、現代を舞台にすると、かつてのような探偵と怪盗のせめぎ合いを再現するのも、徐々に難しくなってくる。
 そんな中、祖父は「洋館に探偵」といった、かねてからのイメージに合った「形」を復元しようとしたのだ。
 こうした尽力も、祖父一人だったら、空回りだったかも知れないが、幸いなことに、共鳴者がいた。
 それが、「怪盗 水月」の祖父、水田 修だった。
 宮井の祖父と同じく修は、大の探偵小説好きだったが、怪盗の方に惹かれるタイプだった。
 祖父と修は本気で仲違いしていたが、志自体は一致していたので、互いに探偵と怪盗という役を演じ、「様式」を守り切ることができたのである。
 代替わりを重ねる中でもこのイベントはすたれることなく、いつしか「家業」としての位置付けとなり、今に至っている。

 

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