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年末恒例特番 怪盗VS探偵

   

「くぬううう、うううっ!」
「落ち着いて下さいっ、ヤツに足元をすくわれてしまいますよっ」
 宮井は、歯をむき出しにするほど焦った。
「隊長」にたしなめられるほど取り乱した。
 しかし、どんなに力を込めようと、時間は容赦なく過ぎていく。
 午後八時二十八分。
 いつもだったら、怪盗との対決を経て、まとめに入ろうかという時間帯だ。
 しかし、水田は来ない。来るような気配もないし、連絡もない。
 桜田が用意してくれたエキストラたちも、「仕事」を終えてどこかに去り、館の周囲には平穏が戻った。だが、TV局のスタジオの雰囲気は最悪だ。
 タレントたちの緊張感が、そのまま館側への不信感にスライドしてしまったようである。
 この番組は生放送だ。つまり出るためには、他の中継を蹴らなければならないわけで、「不発でした」なんて言い訳は通じない。
 綺麗、汚いは別にして、とにかく成立させなきゃならないという部分もあるのだ。
「あっ、頭を切り替えてくる……!」
「ちょっ、ちょっと、宮井さん」
 制止する「隊長」の声を振り切り、宮井はまたもトイレに逃げ込んだ。
 しかし、駆け込んだその瞬間、宮井の腹に激痛が走った。
 思い切りぶん殴られたと感じた時には、宮井は、髪を掴まれ、トイレの個室の外壁に体を押し付けられていた。
「よお、あんた一体どうするんだよ」
 押し込んでいたのは、桜田だった。
 物凄い力で髪を引っ張り、空いているもう一方の手で肩を殴り付けてくる。
 骨に直接響くような、手加減抜きのパンチだ。
「何でだよ。どうして、水田は来ないんだよ」
 宮井の体を殴り付けながら、桜田は声を発した。
 囁くようなボリュームだが、怒りと焦りの感情は、ありありと伝わってくる。桜田にしても、思わず理性を失ってしまうほどに本気なのだ。
「お、お怒りはごもっとも。申し訳ない」
 宮井の声に、桜田はいきり立った。
「違うんだよ。俺が聞きたいのは、謝罪の言葉じゃねえんだ。怪盗が来たって報告なんだ。なあ、なんで何もねえんだ。あんた、事情知ってんだろっ!」
 桜田は、目を血走らせながら、腹に膝を見舞ってきた。吐きそうになるぐらい強烈な攻撃だが、本当の事情を喋るわけにはいかない。
 しかし、事態を収拾できない限り、信用は回復できないだろう。
 ならば、無茶でもやるしかない。
 宮井は、桜田の目を見ながら切り出した。
「なあ、さっきのエキストラ、もう一度使えるかい?」
「い、いきなりどうした?」
「使えるかって聞いてるんですよ。もし使えるなら、十分以内に集めて、館の中になだれ込ませて下さい。できるだけ人の気を引くんです。ブレーカーを落とす必要がありますので」

 

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