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歴史・時代

ハヤブサ王 第1章 イトイヒメ(5)

   

 大王毒殺!! 犯人に仕立て上げられたイトイヒメ。
 大きなうねりが、母を呑み込み、ワケノミコたちの人生を狂わせていく…。

 

 ワケノミコが夢から目覚めると、横で休んでいたイワノヒメは芳しい香を残して姿を消していた。小さな目を擦りながら上半身を起し、暗闇に包まれた寝室を見回した。寝室には、彼の姉たちであるヤタノヒメミコとメトリノヒメミコがいるはずである。だが、その寝息すら聞こえてこない。
 まるで、ワケノミコだけがこの世界に取り残されたような錯覚を覚えてしまう。
 彼は、急に怖くなってしまった。
 昼間はヤタやメトリたちと楽しく遊び、さっきまではイワノヒメの心地良い香りに包まれていたのに、いまは全てが奪われたようで、怖くなってしまう。
 怖くなると、余計に目が覚めて眠れなくなってしまった。
 母に会いたい。母の胸許に顔を埋めたい。
 ワケノミコは、母の匂いを求めて寝台を出た。
 廊下の敷板を踏みしめると、冷たい音が闇を突き刺した。ワケノミコは、足から突き抜けてくるような寒さに体を震わせた。冷たさに震えながら廊下を見渡した。黄泉へと続くような闇の向こうに、ほんのりと温かい光が忍び漏れている。
 はたと目を留めた。その光は、まるで母のぬくもりのようであった。
 ワキノミコは、その光目指して歩き出した。
 ぎしぎしという足音を鳴らして近付いていくと、光の零れる部屋から女性の息遣いが聞こえてきた。少しばかり鼻に掛かったような声だが、それでもイワノヒメの声だと分かる。
(義姉さま、まだ起きていらっしゃる。そうだ、もう一度お話を聞かせてもらおう)
 ワケノミコは、母の香りを漂わせるイワノヒメを求めて、温かい明かりと女のくぐもった声が漏れてくる部屋の御簾を僅かに開けて、中を覗き込んだ。

 

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