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歴史・時代

黒い鷹(二)・巖頭孤鷹 第一話

   

江戸を舞台にしたハードボイルド、パート2です。

 

 その日、江戸の町は、一面の銀世界であった。
 昨日は、一日、雪が降っていたのである。
 だが、それは、春を告げる雪でもあった。
 十日ほども前ならば、降雪の次の日の朝は、江戸中が凍りついていただろう。
 だが、晴天になった今日、雪は、凍りつくこともなく、溶けかかっているのである。
 そうした泥濘んでいる道を、黒鷹精久郎は、歩いていた。
 袖口の細い小袖に、踏込袴という、動きやすい服装をしている。
 剣術をやる者としては、当然の服装である。
 大刀は三尺三寸。
 無銘だが、刀身の厚い、実戦用の刀であった。
 伊達を競う現代では、黒鷹精久郎は、野暮ということになる。
 黒鷹精久郎が、それを気にすることはなかった。
 湯島天神裏門坂通りを、歩いて行く。
 甍に積もった雪が輝いている。
 道が泥濘では、足が取られる。
 しかも坂道だ。
 雪が輝いていては、眼が眩むおそれがある。
 今ここで斬り合いになったら、充分の動きができないだろう。
 黒鷹精久郎の歩行は、いつもより緩やかあった。
 板倉攝津守の上屋敷を過ぎる。
 そして、ふと、歩を止めた。
 また、すぐに、歩き出す。
 左手に、塀が切れている。
 その道から、白刃が出た。
 黒鷹精久郎は、身をかわし、相手の両手を掴む。
 そのまま、捩って、投げる。
 相手は、道に倒れた。
 泥濘が飛び散る。
 黒鷹精久郎は、振り向きもせず、歩き続けた。

 

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