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ナビちゃんの秘密

   

インストールしておくと、半ば自動的に自分好みのキャラクターを探してきてくれる恋愛ゲーム、「ジャストミート」。表現形式からシチュエーションまでをも選べる自由度の高さもあり、国民的な人気を誇っている。

だが、漫画の道を挫折した清田 義信には、業界の冷え込みまでをも招いた、「ジャストミート」と、その案内役である「ナビちゃん」の絶大な人気が許せない。

そこで清田は、「ナビちゃん」への反撃を企てるのだったが……

 

 2030年、あらゆるメディアが進化の道を突き進む中、日本に、一作のゲームが登場した。
 その名も、「ジャストミート」。
 野球っぽいタイトルだが、スポーツではなく、恋愛をテーマにしたゲームである。
 主人公が、様々なキャラクターと関係を深め、交際していくという、この種のジャンルでは一般的な形式だが、「ジャストミート」は、かつてないほどの人気を誇っていた。
 アプリが無料ということもあって、ダウンロード数は国内だけで六千万件に迫り、世界全体では、一億件を超えるほどだ。
 その人気の秘密は、「自由度」と「求心力」にあった。
「ジャストミート」では、表現形式を自由に選択することができる。
 この種のゲームではお馴染みの、2Dアニメ風だけではなく、実写や3DCG、イラストのない小説形式等々、見方を様々に変えていくことができる。
 そのため、映画ファンでもゲーム好きでも、同じように惹きつけられていったのだ。
 しかも、ゲームの質は最良で飽きが来ないとなれば、人気が爆発するのも、むしろ必然的な結果と言えた。
 何しろ、キャラのセリフからBGMに至るまで、常時アップグレードが繰り返されているのだから、プレイしている側はマンネリに陥ることはない。
 他のゲームとは明らかに違う充実ぶりに、日本中が熱くなっていった。
 以来、十余年、数え切れないほどのアップデートを経て、未だに「ジャストミート」はゲーム市場で、圧倒的なシェアを有している。
「くそ……っ」
 だが、今年で三十五歳になる、清田 義信にとっては、その熱狂は面白いものではなかった。
 彼自身、一年間で千時間は「ジャストミート」をやり込むというヘビーユーザーではあるのだが、最近では、プレイするごとにイライラが募ってくる。
 年々、責任が重くなる割に、給料も評価も上がらない職場の状況を味わっていると、「このゲームさえなければ」という思いがせり上がってくるのだ。
 清田は、元々漫画家志望だった。
 高校に入ってから本格的に腕を磨き、大学を卒業する頃には、月刊誌で読み切りが掲載されるまでになっていた。
 競争率は高いが、このまま腐らずにやっていれば、プロとして一人前になり、いずれはゲームのキャラなんかも描かせて貰える、そんな手応えを感じていたのである。
 だが、「ジャストミート」の配信が始まって、状況は大きく変化した。
 完全無料ゲームである「ジャストミート」にいくら人気が集中しても、読者やユーザーの財布が軽くなることはないのだが、既存作品への関心が低下し、売り上げが落ち込んでいったのである。
 新勢力の台頭に危機感を覚えるはずの、ゲームクリエイターや漫画家たちまでもが「ジャストミート」にハマってしまい本業をおろそかにする状態だった。
 そうなると、ますます既存の漫画やドラマには魅力がなくなり、売り上げが落ち、市場が縮小するという悪循環は深刻化していく。 市場の規模が小さくなれば雑誌も少なくなり、特に、売れるかどうか分からない新人を使うことへの抵抗感は増していく。
 結果、清田には連載はおろか、読み切りの枠も回ってこなくなった。そのために彼は漫画家に見切りをつけ、会社勤めを余儀なくされたのである。
 ゲームが永続的な進化を続けている間、漫画の市場規模はどんどんと縮小していき、もはや清田がカムバックする余地を見出すことはできない。

 

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