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けなし屋値千金

   

フリーターの紀藤 雄一は、とにかく人をけなし、不平を言うタイプの人間だった。バイト先では店長と客の悪口を喋り倒し、学校や家でも手当たり次第。

自分が悪かろうが非難を止めない性格で、「けなし屋」とまで呼ばれる彼には、恋人はおろか友人も皆無だったが、最近はバーでクダを巻くことを覚え、ますます悪口はヒートアップしていった。

そんなある日、紀藤の目の前に、どこかで見たことがあるようなごつい男たちが現われる。男たちは、紀藤に対して「ついてこい」と命じるのだった……

 

「ったくよ、主任の奴、マジで最低だよ。クビにでもなってくんねえかな」
 こじんまりとしたバーの中に、紀藤 雄一の声が響く。
 マスターは愛想良く相槌を返してくれているが、向こうの反応がどうであれ、口を閉ざすという選択肢はなかった。
 梅雨時のじめついた陽気も、間違なく悪口に拍車をかけているはずだ。
 紀藤は、二十一歳。
 この四月に専門学校を出たばかりで、今はフリーターをしている。
 学校から優等生と言われたこともなければ、不良だったわけでもない、経歴的には、普通の学生だった。
「くそおっ、ふざけんじゃねえぞっ、どいつも!」
 店内に誰もいないことをいいことに、紀藤は声を張り上げた。このバーのマスターが極めて寡黙で、少々のことでは怒られないことも計算に入れての行動である。
「マスター、もう一杯。まったく、嫌な判定を見ちまった後は、酒が進んでいけねえ」
 紀藤は、空になったグラスを指で弾いた。
 店で一番安い発泡酒を頼み、ろくにつまみも注文せずに延々とクダを巻く。
 それが紀藤の週末の過ごし方だった。
 紀藤は物心ついた頃から、不満を抱いていた。
 家族、学校、娯楽、たまに観るテレビ番組にまで、常に何かの不満を抱かずにはいられなかった。
 そして、その不満を、絶えずどこかに表明しなければ気が済まない性格でもある。
 具体的な行動には出ないにせよ、何かについて口を開けば、常にねちねちした不満ばかりという紀藤は、当然のように皆から遠ざけられた。
 親友もできず、彼女ができるようなこともなかった。
 家族からも疎まれ、高校を出てからは、追放とまではいかなくても、隔離されているような扱いであり、そのことがさらに不満を煽る。
「ったくよお、あんな点の付け方するんだったら、俺にやらせろってんだ。タイトル戦のジャッジなんて、結構いい金になるんだろうしよ……」
 注がれた酒を煽りながら、紀藤は、無言のマスターに向けて絡んでみせた。
 アルコールが入ると、普段の五割増しでねちっこくなる。
 そのため、周囲のあらゆる人間からは、「飲酒厳禁」を命じられているが、止める気はない。
 別に参加する飲み会があるわけでもないし、こうして一人になれるような場所で酒を飲んでいる限り、トラブルになるようなこともないからだ。
 大体、性格からして、悪口だけは止められないと、紀藤自身考えていたりもする。
 何しろ、不満の種は世間のあらゆるところにあって、満足できる要素など、何一つないという状況なのだ。
(そうだ。俺は普通だ。当たり前のリアクションをしているだけなんだよ)
 もう一口と、紀藤がビールを呑んだところで、勢い良く店のドアが開いた。
 何だと思って振り向いてみると、頭を短く刈り込み、黒いスーツにサングラスを身に着けた、どう見てもカタギではなさそうな三人の男が立っていた。

 

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