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歴史・時代

黒い鷹(二)・巖頭孤鷹 第三話

   

 吉田吉次郎は、手文庫から、切り餅を四つ取り出した。
 切り餅一つが二五両、都合、百両である。
 畳の上に、四つの切り餅を置き、言った。
「よかったら使ってくれ」
「御家老、萩家には金がない、とたった今、言ったはずだが?」
「さよう。無駄にする金は一文もない。無駄にする金はな」
「ふむ」
「大阪の陣の前、秀頼公は、真田幸村に金を与えるのを惜しまなかったそうだ」
「またやるつもりか?」
「徳川は戦いを、まだ続けている。どうだ?」
「私は、真田幸村か?」
 吉田吉次郎は、それには答えず、切り餅を指さして、別なことを、言った。
「むろん、それは、挨拶代わり。合戦の用意には、千両?」
 黒鷹精久郎は、黙ったままである。
 吉田吉次郎が、言った。
「それとも、軍を一つ?」
 黒鷹精久郎は、黙ったままである。
 吉田吉次郎が、言った。
「望みは、別にあるか?」
 黒鷹精久郎が、言った。
「私には、葵も桐もない」
「承知している。独行、なのであろう。だが、拙者は家老。人を動かせなくては、この職は勤まらない」
「私を動かせるか?」
「鷹を動かすには、風を起こせばよい」
「風で飛ぶのは、燕雀だけだ」
 吉田吉次郎が、微笑をして、言った。
「鴻鵠を飛ばす風」
 黒鷹精久郎が、言った。
「邪魔をした」

 

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