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歴史・時代

黒い鷹(二)・巖頭孤鷹 第五話

   

「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候」

朝倉宗滴

 

 松平肥後守開催剣術試合は、芝口愛宕下の松平肥後守中屋敷で、行われている。
 試合場所は、中屋敷の表庭。
 その庭を見る、表棟の広間の縁側に、松平肥後守たちが座っている。
 縁側を曲がった小書院からは、その広間の縁側と、試合をする庭が見渡せる。
 その小書院から試合を見ているのが、黒鷹精久郎と芥川行蔵であった。
 塚原千秋は、北野正太郎と、真剣で再試合をすることになった。
 黒鷹精久郎が、乾いた声で、行った。
「馬鹿なことをする」
 芥川行蔵が、聞いた。
「どうしてです。千秋さん、かなりな使い手ですよ」
「木刀と真剣は、違う」
「千秋さんも、人を斬った経験がありましたよね」
「あれは、敵討ちで、気力が違っていた。今度は、そうはいかない」

 塚原千秋と北野正太郎が、大刀を腰に差して、出てきた。
 中清水兵馬が、鋭い声で、言った。
「始め!」
 塚原千秋と北野正太郎は、お互い、半歩下がり、刀を抜いた。
 そのまま、対峙する。
 対峙が、続く。
 庭、縁側、そして小書院の、空気が止まった。
 塚原千秋の呼吸が、荒くなる。
 北野正太郎のそれは、静かであった。
 北野正太郎が、雪のような冷たさで、間合いを、詰めてきた。
 塚原千秋が、後退する。
 塚原千秋の顔に、恐怖の色が出てくる。
 塚原千秋は、後方へ飛び、刀を下げ、左手を前にして、声を出した。
「ま、まいった」
 北野正太郎は、踏み込み、刀を振り上げた。
 中清水兵馬が、手に持っていた扇子を北野正太郎に投げつけて、叫んだ。
「待て」
 北野正太郎は、扇子を斬り、中清水兵馬に、言った。
「なぜ止める」
「もう、よかろう。塚原殿は、まいった、と言っておる」
「真剣勝負は、斬るか斬られるかだ」
「勝ち負けが付けば、それでよい。松平様の庭を血で汚すおつもりか?」
 北野正太郎は、しぶしぶ、刀を納めた。
 塚原千秋は、肩を落とし、休息の間へと、歩いて行った。

 小書院である。
 芥川行蔵が、感情を交えて、言った。
「千秋さん、自信を無くしたようだ」
 黒鷹精久郎は、何の感情も交えずに、言った。
「仕方ない。木刀と真剣の違いだ」
「以前、坂の上の金時と名乗る盗賊がいました。これが大男で、鉞を振り回すんですよ。目の前に鉞が迫ってきたとき、怖かったなぁ」
「大きな刃物より、小さな扇子が怖いこともある」
「え?」
「行こう」
「どこへ? まだ、試合をしてますよ。霞流居合の使い手は?」
 黒鷹精久郎が、立ち上がった。
 芥川行蔵も、続いた、立ち上がった。

 

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