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ノンジャンル

女王様の憂鬱

   

八島百合絵という女性には秘密があった。

 

「ねえ、百合絵ぇ。今度のコンパは来るんでしょお」
 百合絵はこののんびりしたペースの彼女が大嫌いだ。
 同期の女の子の中で、一番可愛くて、のんびりしているくせに営業成績はトップの美穂。百合絵は元々からネガネっ子の上におさげ髪で、しかも大人しい。

 彼女とは水と油のような関係だが、会社で唯一ともいえる友達だから、話さないワケにもいかない。

「ゴメンナサイ、今度もダメなの」
「えぇッ! どおしてぇ? 最後にコンパ来てくれたの、もう半年前だよお。彼氏出来なくていいのお?」
(うっさい、黙れ男食い。こっちはお前みたいに年中盛ってないんだよ)

 表面上の曖昧な苦笑とは裏腹に、百合絵は美穂を心の中で激しく毒づく。
「ゴメンネ、お父さん一人で待っているから」
「またお父さん? もういい加減親離れしなさいよお」

 実際は父親のことなんかどうでもいい。父親は生きてはいるが、半年前に愛人のトコに行ったきり帰って来ない。

 世間一般として考えると非常に可哀想な境遇だが、百合絵は全く気にしたことがない。
 高校、大学、と一流どころを特待生で突破してきたから学には問題がないし、別段お金に困っていたワケでもない。一流企業のOLになって、給料も結構貰っているし。
 まあ、困っているというと、毎朝通勤電車で会う痴漢と……

「八島君、ちょっと来なさい!」
「あっちゃ、ハゲオヤヂが呼んでるよ、百合絵」
 部長という名のこのハゲオヤヂだ。
「またか」と思う。部長は何かにつけて百合絵を呼び出して、小さなミスを指摘してはクドクドと説教をして、最後に「スキンシップ」と称してお尻を触る。

「はい、すぐに」
 百合絵は憂鬱な気持ちを抑え込みながら、ハゲオヤヂの呼び出しに応じた。

 こんな環境にいたら、普通はストレスで体調を壊してしまうだろう。

 ――だが、百合絵には秘密があった。

 その秘密とは――

 

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