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歴史・時代

黒い鷹(三)・阿吽仁王 第二話

   

「幽明死生一理なり」

文天祥

 

 黒鷹精久郎は、道成寺流楠山真伝斎を訪ねて、下総へ向かっていた。
 黒鷹精久郎は、両国橋を渡って、本所へ出た。
 竪川に沿って進む。
 逆井の渡しで中川を越え、小松川村へ入る。

 黒鷹精久郎が小松川村へ入った、ちょうどその頃。
 一人の武士が、六本木赤坂の溜池沿いの道を歩いていた。
 信濃国堀家の侍、大樹勇造である。
 溜池沿いの道は、木が生い茂り、昼でも薄暗い。
 後ろから、足音が近づいてきた。
 大樹勇造は、はて、と思った。
 振り向こうとしたとき、背中を斬られた。
 大樹勇造は、即死した。

 黒鷹精久郎は、小松川村から、さらに東へ進み、利根の渡しで利根川を越えた。
 そして、下総国市川真間に入った。
 晩秋の日が、そろそろ落ちかかっている。
 弘法寺を通り越して、しばらく進むと、そこが浅茅村であった。
 周囲は、田圃を裂くようにして、小川が多い。
 また、小高い丘もいくつかあり、見通しを遮っている。
 本多道場の本多万太郎の話では、市川真間浅茅村に道成寺流楠山真伝斎が隠棲している、ということであった。
 浅茅村のどこか、までは、むろん分からない。
 黒鷹精久郎が歩いていくと、雑木林の陰から、屋敷が見えてきた。
 在所の豪農の家、という佇まいである。
 都合のよいことに、門の前で、数人の男が、集まっていた。
 豪農の主人が、作人に何かの指示を与えているようである。
 黒鷹精久郎は、近寄って行った。
 黒鷹精久郎は、豪農の主人とおぼしき男に、聞いた。
「ちと、尋ねたいが」
「はい、何でございましょうか」
 答えた男は、初老で、がっしりとした体格であった。
 豪農の主人の、風格、貫禄を備えている。
 黒鷹精久郎が、言った。
「このあたりに、楠山真伝斎という者が住んでいる、と聞いたのだが」
「ああ、楠山先生でございますね。存じております」
「どこであろうか」
 豪農の主人は、道の先を指さして、言った。
「あそこの林の向こうに、継橋がございます。そこを渡った先の農家でございます」
「かたじけない」

 

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