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歴史・時代

黒い鷹(三)・阿吽仁王 第五話

   

「自ら反りみて縮くんば、千万人と雖も、吾れ往かん」

孟子

 

 文永九年。
 西暦では、1272年である。
 この年、マルコ・ポーロは、博覧強記の学者として評判の高い利仲忠から、周辺各国の情報を収集していた。
 マルコポーロが一番興味を持ったのは、ジパングという国である。
 利仲忠は、聞いた話だ、と前置きをして、ジパングの説明をした。
 東の海の彼方に、ジパングという国がある――。
 そこでは、黄金が溢れており、家を黄金で造り、川の堤には、石垣の代わりに黄金を積み重ねる――。
 こうした説明をしたのである。
 マルコ・ポーロは、眼を丸くした。
 これまでに色々珍しい国を見てきたが、黄金で家を造る国は、さすがに、なかった。
 しかし、と、利仲忠は、続けた。
 ジパングは、盧捨那仏に守られている国で、外国人が黄金に手を出すことは不可能なのだ――。
 ジパングへ外国人が近寄れば、神風が起こり、吹き飛ばされてしまう――。
 このように、利仲忠は、付け加えたのであった。
 その夜、マルコ・ポーロは夢を見た。
 夢の中で、マルコ・ポーロは、ジパングの海岸へ泳ぎ着き、黄金の家の壁を剥がそうとした。
 その時、空中に、盧捨那仏が現れた。
 盧捨那仏の左右には、阿形と吽形の、二神の仁王がいる。
 その仁王の眼が赤くなり、口を尖らせ、息を吹き出した。
 その息は、暴風となり、マルコ・ポーロは、イタリアまで飛ばされた。
 ここで、眼が覚めた。
 ジパングは、何か不吉な、禁断の国なのだ、とマルコポーロは、信じたのであった。
 それから数年後、フビライ・ハンは、朝鮮から、ジパングまで、侵略しようという計画を立てた。
 マルコ・ポーロは、その軍隊に同行するように命じられたのだが、言い訳をして、同行を断ったのである。
 果たして、ジパングを攻めた軍勢は、嵐のために全滅してしまった。
 マルコ・ポーロは、ジパングを守る神風だ、と思ったのである。
 前に見た、盧捨那仏と仁王たちの夢は、正夢だったのだ、と震え上がってしまった。
 さらに数年後、フビライ・ハンは、再度、ジパングを攻めたが、やはり嵐で全滅してしまった。
 もちろん、マルコ・ポーロは、仮病をつかって、同行しなかった。
 再度の大敗で、フビライ・ハンは、ジパングを攻めることを、諦めたのであった。
 マルコ・ポーロは、ほっとした。
 マルコ・ポーロは、盧捨那仏と仁王たちの夢が、恐かった。
 侵略や夢の話をするだけで、仁王たちに殺されるかもしれない。
 後年、マルコ・ポーロは、ジパングは黄金の国である、とだけ、記録することにしたのであった。

 

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