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ノンジャンル

装飾系な俺ら

   

 極東予備校で、人気講師の座を確立している宮井 隆には、実は、大学を出ておらず、大学受験すら経験していないという秘密があった。大学受験経験ゼロという事実は、学生を受験させ、合格に導くという職業上、かなりイメージが悪くなりかねない要素だと宮井は考えており、それ故に、秘密が周囲に漏れぬよう、絶えず気を配っていた。

そんなある日、宮井は、予備校内で、高校時代の悪友、春田 俊彦と再会する。春田は、次期国政選挙に有力政党から出馬する、将来有望な若手政治家になっており、将来の票を見込んで、予備校で公演をしようとしていたのだ。

久しぶりの再会を喜ぶ宮井だったが、春田は、「経歴」を知っている弱みを突いて、口止め料として、宮井に対し、法外な金銭を要求してきた……

 

「しつこいようだが、この手の読み書き問題でつまらないミスは絶対にするなよ。難関大の合否は、数点、いや、一点の差で決まることも珍しくないんだ。面倒臭がらずに、何度も書いて覚えるんだ」
 夏。
 春よりも幾分強さを増した日の光が差し込み、若干の湿気を感じるようになってきた予備校の教室の中で、俺は、いつも通り熱弁を振るっていた。
 国公立を含む難関大への合格を視野に入れたこのクラスの基準では、夏休みをまたぐ前に、完全な「受験モード」に入る。
 生徒たちも、かなり集中力を高めているようで、私語や居眠りなどは皆無である。
 しかし、その程度で俺は褒めたりはしない。厳しい受験戦争を勝ち抜くには、学校ではもちろん、放課後も一切の隙を見せることは許されないのである。

キーン、コーン、カーン、コーン……

 俺の言葉を遮るように、電子音のチャイムが教室に響く。
 俺は、口とチョークを操る指先をぴたりと止め、教室を後にする。
 まだ教えていない部分はあるが、ダラダラと長引かせることはない。
 生徒たちには、この後もまだ、たくさんの授業が控えているのだ。
「それじゃあ、今日はここまで。要点はしっかり覚えておくようにな。記憶力が、勉強の効率を分けるんだから」
 普段と変わらない注意を言い残し、俺は、理事長室に向かった。 理事長室は、スタッフルームのさらに奥に存在し、基本的に、生徒が入ることはあり得ず、職員すら、滅多に足を踏み入れることがない場所だ。
 もっとも、今日の俺みたいに、呼び出されたのならば話は別だろう。

 

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