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歴史・時代

黒い鷹(三)・阿吽仁王 第六話

   

「智恵あるものは、己れ一人にて智恵を用ふるべからず」

徳川家康

 

 永禄八年。
 室町幕府、第十三代将軍の足利義輝は、非業の死をとげた。
 その場を逃れた側女は、越後の国へと下ったのであった。
 胸には、足利義輝の形見である小刀吽仁王丸を、抱いていた。
 側女は、越後で、尼寺の西月寺に入り、そこで一生を終わったのであった。
 吽仁王丸は、その来歴を記した側女の手紙とともに、遺品として、西月寺の蔵に納まったのである。
 中原では、織田信長が出て、豊臣秀吉が、その後を襲った。
 その後、徳川家康は、豊臣家を滅ぼし、とうとう天下を盗ったのである。
 越後の国では、上杉氏から、蔵王堂氏、高田氏そして長岡氏と変遷した。
 だが、西月寺は、まるで時世時節の外にあるように、変わることなく、存在し続けたのである。
 そして、二百年の時が経過して、寛政の時代となった。
 蔵を整理していた西月寺の住職は、古ぼけた小刀と手紙を発見したのであった。

 同心の芥川行蔵は、連続した辻斬りのことを、黒鷹精久郎に話した。
 最初の犠牲者は、大樹勇造。
 信濃国堀家の侍である。
 六本木赤坂溜池で斬られたのであった。
 次の犠牲者は、中森勘助。
 旗本である。
 芥川行蔵が、言った。
「中森勘助は、刀ではなく、槍で突かれたのですが」
 内藤新宿千駄ヶ谷で、槍で突かれたのであった。
 三人目の犠牲者は、下林新左衛門。
 美濃国戸田家の侍である。
 永田町外桜田で斬られたのであった。
 黒鷹精久郎が、聞いた。
「場所が別々、一人は槍。その三件の辻斬りに、関連があるのか?」
「あるのですよ」
 芥川行蔵が、説明した。

 

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