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幻影草双紙37〜大吉と大凶〜

   

 昔から、お金に縁がありませんでした。
 貧乏神が出て行くことを願って、この作品を書きました。

 

 加賀谷頼子は、コーヒーとケーキを前にして、コピーした資料を読んでいた。
 資料を読み、頭の中で整理する。
 どうやら、形がまとまってきたのだ。
 原稿の素案も出来つつある。
 残りの調査結果も、もうすぐ分かるであろう。
 でも、もう一つ、何かが足りないかな?

 加賀谷頼子が座っているのは、ハイデルベルクという名前の、コーヒー店である。
 ハイデルベルクは、2年ほど前に出来て、急速に人気が出た、コーヒーのチェーン店なのだ。
 コーヒーのチェーン店は、たくさんある。
 どれも、美味いコーヒーを出し、メニューやコーヒーカップ、それに内装などに凝っている。
 おしゃれをして、友達どうし、あるいはカップルでコーヒーを楽しむのに、最適な場所であろう。
 しかし、落ち着けるか、という点では、どのチェーン店も、疑問が出る。
 カップルで来て、青春を楽しむにはいいが、一人で来て、そろそろ結婚するかな、などと考える店ではない。
 そうしたことを、じっくりと考えられる、落ち着けるコーヒー店があってもいいじゃないか。
 こう考えたのが、実業家の大内憲司であった。
 一人でも違和感なく入れる雰囲気――。
 大人の雰囲気を醸し出す内装――。
 魯山人を彷彿とさせるコーヒーカップ――。
 BGMはバッハ――。
 こうして出来たのが、ハイデルベルクであった。
 ハイデルベルクは、大人気となった。
 ある経済誌のインタビューアーが、指摘した。
「ハイデルベルクのコンセプトは、つまり、昭和時代の喫茶店ですね?」
 ハイデルベルク・グループの社長の大内憲司は、額にかかる髪の毛を持ち上げながら、答えた。
「私は、そういうつもりは、なかったですね。既存店にないサムシングを捜したら、こういう形の店になったのです」
「でも、心の奥底には、喫茶店のイメージがあったんじゃ、ないですか? 昔の名曲喫茶のような」
「そういえば、そうかもしれない。学生時代に、よく通った、学生街の喫茶店」
 大内憲司は、インタビューアーが求めているような内容で、答えた。
 実際には、学生時代は、喫茶店など行かず、野球に明け暮れていたのであった。
 インタビューアーは、我が意を得たり、と、話した。
「やはりそうでしょうね。一人で結婚のことを考える……。ハイデルベルクは、そんな店ですよね」

 

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