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ノンジャンル

十年あれば十分

   

本州から遠く離れた孤島、月海島に住む陽月 晶は、島の支配者である実家の権威をタテに、好き放題力を振るっていた。食料、水はもちろん、軍事力までも完備されている島には、政府すら介入できず、権力はまさしく絶対と言えるものがあった。だが、一方では嫡男からは遠い立ち位置にあり、兄たちには頭が上がらず、そのストレスを発散するために、様々な理不尽を、周りに強いてきてもいた。

そんなある日、晶は、かつて自らに苦い経験を味わわせた唯一の存在、羽田 祐希が十年ぶりに、島に戻ってきていることを知る。晶は、今はシングルマザーとして生活している祐希に、学生時代の復讐として決定的なダメージを与えるべく、ある計画を練り上げ、接触するが……

 

「ふふふ……」
 朝、さんさんと輝く町の風景を見下ろしながら、俺は小さく笑った。
 いつものことながら、やはり、俺よりも高いところにいる人間がいない景色というのは、格別の気分を味わえる。
 眼下には、背の低い建物や工場、そして田畑が、肩を寄せ合うように連なっており、その外側に見える海は、深く澄んだ青色をたたえている。
 恐らく、どんなリゾート地でもここまで美しい海を見ることは難しいだろう。
 ここは、月海島。海流の変化が原因でせり上がり、地表となった、半径二十キロほどの島である。
 ぽつりと一つの島だけが浮かび上がった、いわゆる「絶海の孤島」だ。百キロ四方には無人島すら存在せず、本州との人的交流は極めて少ない。
 この島で生まれた大多数の者は、今でも、島を出ることなく一生を送る。
 歴史の激動にもほとんど左右されずにきた月海島を支配しているのが、「陽月」家だ。
 絶大な財力と権力を誇り、能力的にも問題がなかったので、今まで、いかなる他の権力にも屈せず、島の王者として君臨してきた。 そして俺は、「陽月 晶」、陽月家の七男なのである。
 この島で陽月家直系の名字を持っているということは、すなわち確実な勝利を意味する。
 学校の成績がどうであろうと、スポーツへの適性がどうであろうと、一切関係ない。
 家名を出せば、島の中のどんな学校にだって進学できるし、あらゆるトラブルは、警備隊がもみ消してくれる。
 警備隊は、日本政府の警察とは異なる機関で、陽月家の、言わば子飼いである。
 こちらが指示しなくても、常にうまく空気を読んで、事件を「なかったこと」にしてくれるのだから、好き勝手し放題というわけだ。
 正直なところ、どう欲望を表現してやろうかに悩むような日々を送っている。
「少々腹が減ってるな。朝からステーキでも食うか」
 俺は、テーブルに据え付けられているタッチパネルに指を置き、パスコードを入力した。
 すると、五分もしないうちに、メイド服を着た美人が、パンとステーキを盆に盛り、部屋に来た。こちらは、料金も支払わずに一つ頷くだけだ。
 俺は、陽月の人間。何かを頼んでも支払いの心配をしなくとも良いし、料理と一緒にメイドまで「食べて」しまっても、咎められることもない。
 もっとも、今日はゆっくり窓の外を眺めていたい気分であり、女を楽しむような気持ちにはなれない。
 素晴らしい島の景色を楽しみつつ、島産出の大豆から合成した、特上の人工肉を味わう。
 俺は、心底から、いつもながらではあるが、他人には楽しめ得ない満足感に浸っていた。

 

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