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ノンジャンル

ヤラズガタリ

   

口から出まかせのみで生計を立てる「売話師」の内藤 銀太だったが、長年、「仕事」を続けてきたツケが回り、半年後までに二百万円を工面できなければ人生が終わりかねないという状況に陥る。

どうにかピンチを脱出し、大逆転への足がかりを得なければと悩んでいた内藤は、ある日、自宅のポストに入っていた折り込みチラシで、「大賞一千万、副賞二百万」という、ノンフィクションのコンテストがあることを知る。

破格の条件だが、大賞を取れなければ人生は終わり、しかも文章なんて今までろくに書いたことはない。途方に暮れた内藤がもう一度チラシを見返すと、そこには何やら不自然なシミが……

 

「いやあ、参ったな。どうするかねえ」
 俺は、自宅のTVを見ながらため息をついた。
 言葉遣いと声色が呑気なのは、生まれながらの性分みたいなものだが、今度ばかりは、本気での焦りを表現できないことに、もどかしさを感じている。
 それもそのはず、俺は、ある条件を突破しなければ、半年後までに死ぬという現実を突きつけられているのだ。

「二百万だ。半年までの間に、二百万作って、俺のところに持ってこい。さもなきゃ、お前の居所をバラしてやる。『正業』以外の方法で、稼いでこなければ、俺は認めん」
 三日前、俺は、ある悪徳探偵に家に上がり込まれ、ナイフとともに、その条件を突きつけられた。
 隠れ家の準備は周到にしておいたはずなのだが、どこかにミスがあったらしい。ほとぼりが冷めるまで隠れていようと思ったのだが、なかなか世の中はうまくいかない。
 ミスの内容がどうであれ、ここに「訪問」された時点で、俺はどうしようもなく追い詰められてしまったということになる。
 俺、内藤 銀太は、生まれてから四十年以上、今に至るまで、一日たりともまともな仕事に就いたことがない。
 何をやって生計を立てていたかというと、「話」である。
 口から出まかせの話を、さも真実のように信じ込ませ、情報料とネタを受け取り、それを元手にまた「話」をでっち上げていく。「売話師」と、非合法の世界で呼ばれている人種なのだ。
 スポーツも努力もまったくできなかった俺だが、舌の回りだけは誰よりも早かった。
 十五の時に師匠から手ほどきを受け、二十五になった頃には、「業界」の第一人者と噂されるところにまで成長した。
 カモから直接金品を騙し取るのではなく、情報料を頂くやり口が冴えていてスマートということで、自分なりに誇りを感じていたりもした。
 だが、この世界で「有名」になるということは、カタギの世界とは違い、仕事がなくなることを意味する。
 当たり前の話だが、嘘の話が紛れているかも知れない情報屋からネタを仕入れようとする連中は少ないし、デカい「仕事」の場には、口が軽く、真実味のない人間を介入させないのが鉄則だ。
 かくして、俺が得てきた名声は、段々と「悪名」と呼ばれる種類のものに変わっていき、「話」を聞いてやろうという人間も少なくなっていく。
 仮に聞いたとしても冗談半分が関の山で、生活をかけるぐらいの信頼を置くような人間はいなくなった。
 反面、俺への恨みは、加速度的に増していった。
 自分が「仕事」でヘマをしても、「内藤のせいだ」と思う人間が現れ、仲間に対しても、「内藤が嘘の情報を流したせいだ」と言い張る奴すら出てくる。
 悪いことをしている連中の間で、「売話師内藤」のイメージは、実像とかけ離れて膨らみ、今では、俺の首には高額の賞金がかけられるまでになった。
 逃げ場はない。シャバにも、「塀の中」にも、俺への恨みを持っている人間は山ほどいる。
 国外に逃げても追っ手がついて回るだろう。事実かそうでないかは重要じゃない。追っている連中が、俺を仕留めたがっていることが問題なのだ。
 そして、ようやく逃げ込んだ隠れ家にも、すぐさま探偵が来た。 直接的な始末でなく、条件をつけてきたのは意外だったが、依頼人の温情が影響してるわけじゃないだろう。
 俺がもがき苦しむのを見て、楽しみたいって奴がいるのだ。
 実際、達成は困難である。
 条件を突きつけられるまでもなく、今まで一度も労働していない俺が、普通に働いて二百万もの大金を稼ぐのは難しいし、そんなことをしていれば、追っ手に見つかってしまう。
 かと言って、力も人脈もない中では、犯罪でバレないように大金を稼ぐのも無理だ。
 可能性がわずかにあるとすれば、手持ちの金を全て宝くじに替えるぐらいしか思いつかないが、期待できる選択肢ではないだろう。

 

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