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ラブストーリー

白いキャンバス ●思い出編 2

   

10年前の写生大会で、僕らの進むまだ形にもなっていない道がくっきりとし始める。
人物を描くことができなかった僕、絵心がなかった彼女、こんなふたりがまさか「絵」に関わることが10年も続いていくなんて――

 

◆◇◆◇◆

「どうしたの? 外を眺めて」

 昔を思い出している間に、妻が部屋に入って来たらしい。
 その気配にすら気づく事なく、昔を思い出していたことに、僕はくすぐったい気持ちになった。
 昔を思い出すなんて歳をとったな……ではなく、思い出を振り返っている姿を妻に見られていたことへの気恥ずかしさは、なんとも言いようがない。
「あら? あの制服って……」
 妻も窓の近くに来て外を見始めると、近くにある高校へ向かう学生と保護者の姿を見て言う。
「初音も覚えていたか」
「当然よ。あの出会いがなければ私が美術部に入ることもなかったし、あなたとこうして家庭を持っていかも疑問だもの」
 あの頃、長い髪をしていた面影はもうなく、肩にかかるくらいの長さではあるけど、サラッとした髪質は今も健在。
 彼女が動くとサラッと髪が揺れる。
 今もまた、少し俯く仕草をとった為、髪の毛がサラッと揺れた。
 その髪を手で軽く払い、そっと自分のお腹をさする。
「それに、十年前。自分が母親になる日がくるなんて、まったく想像もしてなかったかな」
 ふっくらとしたお腹には、僕たちの絆が生んだ新しい生命が宿っている。
「それを言ったら、僕も同じ。第一……」
 第一、十年後なんて、誰もわからない。
 これから先のこと、一年先だってわからないものだと、僕は思う。
「そうだよね。誰だって先のことはわからないよね。そういえば、亮介が本格的に画家を目指そうって決めたのも、ちょうど十年前だったよね? あれは確か……」
「そうだった。確か、春の写生大会だったかな」

 

-ラブストーリー

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