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ラブストーリー

ラブサイクル<前編>

   

 乙女式、正しくない恋の描き方。

 そんな恋愛模様の一片を贈ります。

 ただ甘い、けれど少しほろ苦い物語と相成ります。

 ラブ・サイクル『前編』。

 どうぞご堪能下さい。

○抜粋○

「今日、何時まで居られるの?」
「夜に打ち合わせ入ってるから、それまでかな」
「がーん」

 彼の言葉に、泊まりじゃないのかと軽くショックを受ける。ちなみにさっきのがーん、も私の口が言った。もちろん我がままなど言ってはいけない。大事な時間を私に割いてくれて、絵を手伝ってくれているのだ、彼は。

 でも。

 私を放って……おいて?

○○○

 

 目が覚めたら日が出てた。

 空が薄水色だった。もう朝だ。瞼を擦って腹を掻きながら欠伸。後頭部を掻いて、先日背中に張ったモーラステープの貼跡の上も掻く。伸ばした腕や太もも、足首がだるい。昔からダイエットとは無縁な自分の身体は、痩せ過ぎで筋肉が付かず、不健康で憎い。胸に手を当ててなお更がっくり。また痩せたかもしれない。

 お母ちゃんに怒られる。とか考えたけれど、そもそもこの一年、私は実家に連絡すら入れていない。
 独り暮らしは、朝ご飯すら億劫だ。

 とりあえず今日はカロリーメイトでいいかと思案しながら、パイプベッドから抜け出して、這うようにしてパソコンの前に移動。自分の身体よりだいぶ大きな椅子に、体育座りで着席する。足元のでっかいパソコンの電源を、足の親指で頑張って入れる。頭が徐々に回転していく。昨日、どこまでやったっけ。純黒のタブレットペンを握りながら、寝る前の事を思い出す。

 CPUが熱を持ち、五個の冷却ファンが煩く回り出す。マザーボードがメモリを読み込んでハードディスクが軽音を鳴らす。OSのロゴがディスプレイに表示。前回異常終了状態で起動メニューが出てくるので、ますます昨日、何があったのか思い出せない。
 ふと右側の、硝子に自分の姿が見えた。ろくに散髪にも行かない髪は爆発していて、服も昨日着ていたものそのままだ。高校の時のキャミソールにハーフパンツ、以上。全くもってお金を掛けていない、自分は女子として大丈夫だろうか。

 かくして自作機、あいちゃんは今日も元気に稼働する。よしよし。

 対して私は、何と言うか女子力ないなあ。と思う。

 私は床の上に落ちたヘッドフォンを足で拾い、耳を覆う。OSが完全に起動して、真っ先に音楽を掛けた。奏でる曲は『歌ってみたシリーズ』のお気に入りのループ。昨夜飲みかけのお茶ペットボトルに手を伸ばして、一口飲んで眉を潜める。ほとんどない。もう一口飲んだら無くなった。トイレ行きたい。面倒くさい。

「茶が足りんな。冷たい茶が欲しい」
「はい、かよちん」
「っ、おう?」

 私の独り言に、目の前に手と、ペットボトルが伸びて来た。不意打ちだ。びくりと身体を震わせて椅子の背凭れにしがみ付いて驚いているのは私。ひぃい、おしっこ漏らすかと思った。いやいきなり出てくるな、と思いつつ、目の前に来たそれを受け取り、その手首に巻かれた腕時計に、それが誰かを確認して安堵する。

 見慣れた指と、Gショックの腕時計。その光景に私の心は満たされた。きゅん。

 

-ラブストーリー

ラブサイクル<全2話> 第1話第2話