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幻影草双紙48〜バーの名前は『黄泉』〜

   

 大物だけが入室を許される、会員制のバーです。

 

 大木平一郎は、ゆっくりと、歩いていた。
 霞が関や永田町に近い街の通りである。
 本来ならば、踊りながら歩きたいのであるが、それでは体面が保てない。
 国会議員たるもの、貫禄がなければならない、と考えて、わざとゆっくりと歩いているのである。

 さよう、大木平一郎は国会議員であった。
 金バッジを付けたばかりの1年生議員であったが、国会議員は国会議員である。
 長年の夢が叶ったのだ。
 考えれば、苦節20年の、長い道のりであった。
 与党幹部である、超大物の先生のカバン持ち、という下積みを経て選挙へ出たのだが、ことごとく落選であった。
 今回の選挙でも、落選した。
 次点であった。
 ところが、当選した者の一人が、選挙違反で失格となった。
 それで、繰り上げ当選で、大木平一郎が、めでたく国会議員となったのである。
 いささか、棚からボタ餅的な事ではあるが、国会議員は国会議員である。
 なってしまえばこっちのもの、と大木平一郎は、思っていた。

 大木平一郎は、貫禄を込めて、ゆっくりと歩いていた。
 派閥の親分の事務所からの帰りなのである。
 派閥の親分の前では1年生であったが、外へ出れば、国会議員である。
 一般庶民とは違うのだぞ、と大木平一郎は、思っていた。
 道を歩けば、一般庶民は両側へ分かれて、道を開けてくれる――。
 昔は葵の印籠、今は金バッジなのだ――。
 車道を横断すれば、車の方が避けてくれる――。
 金バッジを見れば、車は急停止するのだ――。
 車道へ出た大木平一郎は、タクシーと衝突した。
 縁石に頭をぶつけて、意識を失った。
 病院へ運ばれたが、内臓は破裂しており、意識は戻らない。
 そして2時間後、医師は、死亡を宣言した。

 

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