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ラブストーリー

白いキャンバス ●未来編

   

10年後、僕らはどうなっているのだろう?
肌寒さ残る春の夜、庭先で語り合う。
そして訪れた実際の10年後とは……

 

 十年後――僕ら家族はどうなっているんだろうか?
 僕や初音、高木それぞれ個人はどうなっているんだろう?
 娘は?
 十年前、まだ娘が初音の体内に居た頃、十年後がこんな世界になっているなんて想像していただろうか。
 そもそも――
「二十年前の出会いから、こんな人生を歩むなんて、想像できなかったよね」
 義母の家で夕食をご馳走になり、僕らはまだ肌寒さが残る庭先にある椅子に腰かけ、昔とこれからを語り合う。
「そうだね。二十年前、お義父さんが迷子になってなかったら、僕らの出会いもなかったってことかな」
「クスッ、それじゃあお父さんがキューピットってこと? なんか可愛らしさの欠片もないわね」
 ――と初音は言いながら、窓を開けたまま部屋の中で酔いつぶれ横たわる義父を見る。
「お父さんのことといえば、まさか母と復縁するとは思わなかったし」
 二十年前、離婚した初音の両親は、孫が生まれた十年前に復縁している――と言っても、籍はいれず、熟年男女の同棲みたいな感じが続いている。
「お義父さんが言うには、嫌いで別れたわけじゃないらしいけどね。初音は理由、知ってるの?」
「少しだけ。ピアニストとして最後くらい思いっきり活動させたかったって。私が邪魔なのかなって思った時もあったけど、結婚して家庭を持って娘が生まれて、少しだけその考えが理解できたかな」
 残りのビールを一気に飲み干し、肩で大きな呼吸をする。
 初音の中にある何かを吹き飛ばすような呼吸に、僕は声を出さずに笑う。
 明るさより暗さの方が勝っている、でも決して薄暗いわけじゃない庭先で、僕は初音の新しい一面を見たような気がした。
「ねえ、亮介はどう? 私と結婚して家庭を持って、娘が生まれて、両親の気持ちが理解できたってこと、ある? そういえば亮介ってあまりご両親のこと、話さないけど……」
「話さないんじゃなくて、聞かれないから話さないだけ。それに、初音のご両親のように特別じゃないから。ただ、子供を育てるって大変なんだってのは実感した。想像よりはるかに大変。なのに不平不満言う事無く育ててくれたことには感謝してる。特に美大なんて、相当大変だったと思う」
 それでも駄目だとひと言もいわず、やりたいことをやらせてくれた。
 それって最大限の信頼と愛情をくれていたんだって、自分が親になって改めて思い知る。
「私もね、今ならちょっとだけ母の気持ちがわかるかな。私にピアノを習わせた母の気持ち。次第に煩わしくなって反発するように止めたけど、止めることに何かいうことはなかったのね。でもね、もしあのままずっとピアノを続けていたら、また違った私の人生もあったのかなって。だから、あの子がピアノに興味を持ってくれたこと、本当は嬉しかったな」
「なんだ、だったらそう言えばいいじゃないか」
「駄目よ。今は言わないの。あの子がもう少し大人になったら……そうね、十年後――」
 満天の星空とまではいかない夜空を見上げ、遠い宇宙の星々に思いを馳せるように、十年後の未来を語り始める。

 

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