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「運動会」の幕引き

   

支配者の側にはいるものの、体がひ弱であることを気にしていた「俺」は、「運動会」の選手としてエントリーし、体を鍛えることを思いつく。「運動会」とは、借金や罪に追われている者たちを、莫大な賞金と引き換えに参加させる「ゲーム」で、ごく当たり前に参加者が死傷する、凄惨かつ過酷なものだった。

「俺」は狙い通り、体を鍛えることには成功したが、施設からの脱走には失敗し、結局レースに出場することになった。だが、長い間施設で仲間とともに過酷な訓練に明け暮れていた「俺」の精神は、もはや支配者側のものではなく、人命を弄ぶ支配者を憎んですらいた。

苦闘の末、見事レースを完走した「俺」は、自らの手で幕引きをはかるべく、主催者側の一人である、かつての親友と対峙するのであったが……

第四回「ライトノベル・ジュブナイルコンテスト」に入賞し、創英社様の方から刊行された「忘れがたい者たち」に掲載された作品の再録です。

 

 最終走者の俺に向かって、バトンがすっ飛んできた。
 前の走者が、地雷に吹き飛ばされてしまったのだ。
 真っ白だったはずのバトンは、これまで走ってきた連中の血によって、真っ赤に染まっている
「……ようし」
 とっくに、腹はくくってある。
 今の俺のなすべき仕事は、このバトンを、ゴール地点にまで運ぶこと、ただそれだけだ。
 時間はどんなにかかってもいい。他のチームの連中は、とっくにリタイアしている。
 一つ、大きく息を吸い込んで、一歩足を前に踏み出すと、四方を取り囲む群衆からの声援が、俺の鼓膜を叩いた。
 競技場の正面に位置するメインモニターには、十万人とも二十万人ともつかない、ここに来ることができなかった連中の、興奮しきった顔が映し出されている。
 日本中の注目が、俺に集まっているだろうことは、間違いないだろう。
「けいいっ」
 一声叫んで、細かに色分けされたパネルを、少しずつ進んでいくと、不意に、正面から吊るされた丸太が突っ込んできた。
 物凄い風圧を感じながら、横に飛んでそいつをかわし、安全地帯に両足を付けると、会場からは、ほう、とも、おお、ともつかないため息が漏れる。
「見世物」である俺の挙動に注目しているのか、それとも、競技場で戦っていないことに幸せを感じているのか。
 どちらにしても、俺にとっては、不快以外の何物でもなかった。
(もしかしたら)
 過ぎ去った日々のことを考える自分にも、同じくらい腹が立った。
 だが、今の俺は、何をしなければならないか、上手いこと理解している。
 俺は視線を下げ、地面のトラップに引っかからないようにしながら、慎重に足を運んでいった。
 この「最終種目」で倒れた連中はほとんど、地面に仕込まれたトラップにやられているのだ。
 一番最後に走る俺が、二の舞になるわけにはいかないだろう。

 

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