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ショート・ショート

スターフィッシュはおいしいか

   

「宇宙に魚がいるんだってよ」
 トラはそう言って舌なめずりをした。
 私とトラは、星を食べた魚の味について話し合うのだが……。
 
 

 

「宇宙に魚がいるんだってよ」
 トラは私の隣りに座るなり、ワクワクした声でそう言って舌なめずりをした。
 家の屋根に登って星を眺めて、静かな夜を満喫していたのに、トラのせいでぶち壊しだ。叩いてやろうかと思ったけれど、やめておいた。構ったら構ったで、しつこく話しかけてくる。
 私は聞こえなかったふりをして、トラから星に視線を移した。
 可憐なひかりは見ていて飽きない。
 星は地上からとんでもなく遠いところにある、とテレビで言っているのを聞いたとき、私たちに時間をかけてひかりを届ける健気さにちょっとだけ泣いてしまった。
 家の中から、たくさんの人のわざとらしい笑い声に混じって、本気で笑っているお母さんの声が聞こえてきた。テレビで漫才を見だしたに違いない。私は何が面白いのかよくわからないけれど、お母さんは好きらしい。
 たおやかな風が落ち葉の匂いを包んで持ってきた。
 夕飯の匂いもしないかな。
 鼻をひくひく動かしたとき、背中をつんつんと突っつかれた。
 隣りを睨むと、トラが顔をニタニタさせて言った。
「しーちゃん、どう思う? 宇宙の魚。おいしいのかな?」
 トラの口から唾液がタラリとこぼれた。顔をしかめて、ちょっとだけ距離をとる。お気に入りの白いワンピースに垂らされてはたまらない。
 トラは目を細めて、夜空を仰いだ。
「星を食うんだってさ。星ってうまいのかなぁ」
「魚が星を食べるの?」
 星が食べられるなんて衝撃的過ぎて、聞き流すことなんてできない。
 トラは上を向いたまま夢見心地で頷いた。そのまま後ろにひっくり返ってもおかしくないぐらい、喉を反らしている。
「星を食べた魚って、どんな味なんだろうねぇ」
「そもそも宇宙に魚なんているの?」
「ダチ公に聞いただけだから知らない。でも、あんなに広いんだよ? 魚くらいいそうじゃない」
「そうかな…….」
 宇宙に生き物はすめないとテレビで言っていた。もしいるとしたらエイリアンだとかいう特別な生き物だとも言っていた。
 トラの言う宇宙の魚というのは、もしかしたらエイリアンのことかもしれない。特別な生き物だったら、星を食べてしまうくらい朝飯前なのかも。
「いるとかいないとかそんなん抜きにしてさ、味が重要なんだよ」
 トラは真剣な顔で私に言った。何がなんでも味の話をしたいらしい。いやしん坊め。
 仕方なく、どんな味がするのか考えてみるけれどいまいち想像できない。
 うんうん唸っていると、トラが星を指した。
「あの星は唐揚げで、あそこの星は豚カツ、あっちの星はハンバーグの味がすると思うから、魚の味は洋食屋だと俺はみる」
「ちょっと、全部お肉じゃない。しかも洋食屋の味ってなんなの」
「魚が全部の星を味見してくれたら、腹の中で味が混ぜ合わされて洋食屋のメニューがひとつにまとまるんだ。魚一匹食べるだけで、洋食屋のメニューがいっぺんに味わえるんだぜ? お得だろ」
 ふふん、と得意げに胸を張るトラにげんなりする。
「メニューがひとつにまとまったら、油でギトギトのヘンテコな味になりそうじゃないの。やーよ、そんなの」
「じゃあ、しーちゃんはどうなんだよ」と睨まれる。
 私だったら、やっぱり……。
「お魚の味がいい」
 トラはぽかんしたあと、お腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。
「なっ、何よ!」
 恥ずかしさに怒鳴っても、身をよじってひーひー笑うばかりだ。
 見た目が魚なら、やっぱり魚の味がしたほうがいいと私は思う。見た目とかけ離れた味なんて、どんなものか予想ができないから食べるときちょっと怖いもの。

 

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