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ショート・ショート

スターフィッシュはおいしいか

   

 トラはお腹をさすりながら、座り直した。閉じた口の隙間からは、噛み殺せていない笑いがもれている。
「ははっ、いやいや、うん、ふふっ、面白いよ。うん、くふっ」
「馬鹿にされてる気がするんだけど」
「別にそんなことは、ぶふふっ、ないよ」
 笑いながら否定されも説得力のかけらもない。
 トラはふーっふーっと息を整えると改めて弁解した。
「見た目どおりの味がいいなんて、しーちゃんらしいと思ってね」
「どうだか」
 つんとそっぽを向けば、わたわた慌ててゴメンと頭を下げたのが気配でわかった。
 謝るくらいなら、最初から笑わなければいいのに。
 ため息をつくと、場をとりなすような咳払いが聞こえた。
「しーちゃんは、どんな魚だと思うの?」
 ちろっとトラを見みると、はにかんで頭をかいた。私の好きな仕草に免じて、会話を再開させてあげる。
「そうねぇ。星を食べるくらいだもの、やっぱり綺麗でなくっちゃ。尾びれや胸びれが、金魚のリュウキンみたいに長くてひらひらしてそうよね」
「俺、金魚は身が少ないから好きじゃない」
「トラの好みはどうでもいいの」
 しゅんとするトラを横目に、私は続けた。
「魚のお腹に入った星は、消化されるまでひかるんじゃないかしら」
「え、魚のお腹がひかるってこと? ちょっと、気持ち悪くない?」
「そう? 居場所がわかって捕まえやすいじゃない。それに、本当に星を食べて生きてるんだってわかるし、ロマンチックじゃないの」
「そうかなあ」
「食い気ばっかりのあんたにはわかんないわよ」
「じゃあさ、味は?」
「……うーん」
 私は口をつぐんで考えた。
 リュウキンのような姿から予想すると、味は金魚になるだろう。けれど、食べた星のひかりでかがやける魚のだ。臭みのない、さらっとした味のような気がする。
「白身で淡白なんだけど、ほのかな甘味があって、歯ごたえのある食感をしてそうよねぇ……」
「ふーん」
「白身魚といったらタイにカレイ。ああでも、サバもいいわよね。サケも捨てがたいし」
 想像していたら、本物の魚を食べたくなってきた。お母さんは私のために毎日、魚の缶詰を食べさせてくれる。お昼ご飯はカツオだったから、晩ご飯は白身魚がいいかな。マグロでもいい。
 ご飯だよって、お母さんが呼んでくれないかな。そうしたらトラなんてほうって、居間にかけ込んで、今晩の魚が何なのか確かめることができるのに。
 そわそわする私に、トラがおずおずと言った。
「あの、途中から話の焦点がずれた気がするんだけど」
「だって、お腹すいてきちゃったんだもん」
「ちょうど夕飯時だしなぁ。俺もお腹へってきた」
 トラは伸びをすると立ち上がった。
「洋食屋にでも行こうっと」
「あんた、まさか毎日行ってんじゃないでしょうね。病気になるわよ」
「毎日はさすがに行かないよ。俺だって肉より魚派なんだから」
「そうかしら」
 フンと鼻で笑ったとき下のほうから、「しいちゃああん、ご飯よーっ」とお母さんの声がした。
「はーいっ」
 返事をしてうきうき屋根を降りる。私の後にトラが続く。庭木伝いに地面におりるとトラが言った。
「今度、宇宙の魚を食わせてやるからな」
「期待しないで待ってるわ」
 トラと別れてテレビのついた居間に飛び込むと、ご飯が用意されていた。ドキドキしながらお皿の中を覗くと、ササミが入っていた。
 予想とは違ったけれど、好物だから構わない。
「いただきまーす!」
 咀嚼しながら、ちゃぶ台に座って箸を動かしているお母さんを見上げると頭を撫でてくれた。
 匂いからして、お母さんの晩ご飯は親子丼のようだ。
 お父さんは今日もお仕事で遅くなるみたい。
 お母さんと一緒のご飯もいいけれど、たまには皆で食べたい。きっともっとご飯がおいしくなるはず。
「しいちゃん、今日はお友達が来てたみたいねぇ」とお母さんが言った。
 私は口の中のものを飲み込んでから答える。
「そうなの。トラが来てたのよ」
「あの仲のいいトラ猫ちゃんかな? それとも、ブチ猫ちゃんかな?」
 お母さんとの会話は噛み合わないけれど、ちぐはぐな感じが面白いから気に入っている。
「ブリッチちゃんはついこの間、捕まって、保健所に行っちゃったらしいわ。もう会えないんじゃないかしら」
「お家の中で遊んでもいいのよ?」
「嫌よ。よその子に住み着かれちゃたまんないわ。私だけがお母さんの子なの」
「気が向いたら、紹介してちょうだいね」
「はーい」
 私はお皿に顔を突っ込んでササミを食べながら、トラとの話を思い返した。
 宇宙の魚とトラは言っていたけれど、星を食べる魚以外にも魚のかたちをした生き物がいたら、それも宇宙の魚になってしまう。きちんと呼び分けたほうがいい。
(何がいいかしら)
 お母さんがつけていたテレビから、「新たなものまねスターが誕生しました!」とお兄さんの興奮した声が聞こえてきた。
 画面を見るとひとりの女の人が花束を抱えて、舞台から手をふっている。
「では、歌ってもらいましょう。曲名はフィッシュの猫唄。どうぞ」
 お兄さんの声に閃いた。
 魚の名前はスターフィッシュにしよう。まさしくスターのような魚だもの。
 トラが今度来た時に知らせてあげよう。
 聞こえてくる歌声に混じって、お母さんの呟きが聞こえた。
「猫って、人間の言葉がわかるのかしらねぇ」
「どうかしらねぇ」
 きっと私の返答は、うにゃあん、とお母さんに聞こえているだろう。それでいいと、私は思う。言葉だけが全てじゃないもの。
 それよりも、結論を出さなくちゃ。

 スターフィッシュは、きっと、おいしい。

 

【完】

 

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