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幻影草双紙51〜翡翠の石〜

   

 古来、翡翠には不思議な力があるとされてきました。

 

 加賀谷頼子は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
 四国の高松にある、大きなホテルのコーヒールームである。
 ちょうど夏休みなので、観光客が窓の外を行き交っている。
 若いカップル、家族連れ、熟年の団体、などなど。
 場所柄、お遍路も、時々通る。
 観光客は複数で行動している。
 お遍路も同行二人である。
 だが、加賀谷頼子は独りであった。
 加賀谷頼子には、キャリアウーマンそのものの雰囲気が漂っている。
 キャリアウーマンが、独りで、仕事の想を練っている――、と人は思ったであろう。

 加賀谷頼子は、四次元社の編集委員であった。
 四次元社は、霊界との交信とか、カスパール・ハウザーやサンジェルマン伯爵、世界殺人秘密結社の暗躍などをテーマとする書籍を手がける出版社である。
 『月刊トランシルバニア』という雑誌も出している。
 マイナーな出版社ではあるが、知る人ぞ知る、その筋のマニア向けの老舗の出版社であった。
 加賀谷頼子は、この、特殊な出版社である四次元社の、有能な編集委員なのである。
 呪術や魔道、宇宙人や地底人を取り上げる出版社の有能な編集委員として、加賀谷頼子自身は、運命や奇跡を信じているのであろうか。
 答えは、イエスである。
 彼女は、陰陽暦と占星術で行動を決めている。
 ネックレスは銀の十字架であり、先が鋭くとがっている。
 もちろん、クリスチャンだからではない。
 吸血鬼や狼男と戦うときの用意なのである。
 宝くじに当たらないのも、イケメンの男性に巡り合わないのも、金星人の陰謀だと思っていた。
 確率論からいえば、宝くじは、何回も購入していれば、たとえ少額賞金でも当選するはずである。
 それなのに、当たったことがない。
 人類の半分は男性であり、その中の6割以上は結婚適齢期であり、そのなかのさらに20パーセントはイケメンであろう。
 確率論的には、結婚相手と巡り合うはずである。
 それが、皆無なのだ。
 偶然の出会いすらない。
 これはきっと、金星人が確率を操作しているに違いない、と加賀谷頼子は信じていたのである。

 

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