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幻影草双紙54〜居酒屋の名前は『般若』2〜

   

 昭和時代を彷彿とさせる居酒屋。
 昔話に、花が咲きます。

 

 
 東京の近郊ではあるが、再開発に取り残された一画に、居酒屋『般若』があった。
 店の内装は、昭和時代が、そのまま残っている感じである。
 女将は、昭和の青春時代の美しさが、今でも残っている。
 その日、客は、常連の五十嵐次郎一人であった。
 女将と同世代に見える、体格のよい男である。
 どこか、堅気ではない雰囲気がある。
 五十嵐次郎が、言った。
「『夕鶴』って、どこがいいんだ?」
「素朴な民話、という所でしょうね」
「素朴すぎて、面白くない」
「素朴だけど、その中には、純粋な愛情と、欲に目が眩んでいくことの対比、が語られているわ」
「そういう道徳があるから、学校の演劇部で取り上げられるんだろうな」
 『夕鶴』とは、民話劇の『夕鶴』のことである。
 主人公与ひょうの妻、つうは、与ひょうのために、きれいな布を織る――。
 与ひょうは、布が高価で売れるので、つうに、どんどん作るように命令する――。
 つうは、必死で布を織るが、ただひとつ、与ひょうに頼む――。
 布を織る姿だけは見ないで下さい――。
 与ひょうは、その頼みを無視して、布を織る姿を見ると、そこにいたのは鶴であった――。
 学園祭で、演劇部がよく演じる劇である。
 五十嵐次郎が、続けた。
「それで、誰でも知っている有名な話、となった。でもさぁ、冷静に考えると、やはり面白くない」
「そうかしら?」
「だって……」
 なにやら、固い演劇論のようであるが、もちろん、そうではない。
 酒の肴に、雑談しているのであった。
 五十嵐次郎も女将も、一時期、シェイクスピア俳優であった。
 それで、酒の肴に、こういう話になるのである。

 

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