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ノンジャンル

試験の王

   

藤沢 俊二は、四十歳を前にしながらも定職にはつかず、いわゆる試験監督だけをしていた。その目的は収入ではなく、どんな身分や地位の人間でも、試験中は監督者の指示に従わねばならないという「状況」に魅力を感じてのことだった。

今まで社会で活躍していた受験生たちが、何もしていない藤沢に「服従」する。その優越感に、藤沢は酔っていた。

試験監督を済ませたある日のこと、藤沢は、露店の立ち並ぶ一角で、服を売っている女性に声をかけられる。女性は、藤沢を「優秀な人間」と呼び、ゆっくりと話でもしようと持ちかけてくるのだった……

 

かち、こち、かち、こち……

 時代遅れの時計の秒針が動く音が、教室の中に響く。
 無駄口を叩く奴は一人もいない。見た目も歳もバラバラの男女が、皆一様に配られた問題を凝視し、マークシートに答えを書き込んでいる。
 ペンの動く音と紙の擦れる音、そしてわずかに漏れ出る吐息が、ピリピリとした緊張感をいっそうかき立てているようでもある。
 教室を埋め尽くしている男女が臨んでいるのは、通常の授業ではない。公的な検定試験である。
 免許と違って、何を扱う権利が与えられるわけではないが、それでもテストの成否は、今後のキャリアを大きく左右していく。
 特に、就職や受験を控えた連中にとっては一大事と言えるだろう。
(うーん、たまらんな……)
 普段は教師が座るべき場所に腰掛け、そんな受験生たちの姿を眺めながら、俺は、いつものように優越感に浸っていた。
 そう、俺は、試験を主催する団体から委託された試験監督なのだ。
 膨大な受験生が存在する中で、一々休日に、本職の教師や団体の職員を投入するわけにはいかない関係上、この手の仕事はかなり多い。
 もっとも、普通は一回限りの日雇いなわけで、「仕事」というよりは、休みを使った小遣い稼ぎの色彩が強い話でもある。
 だから、暇のある学生や休職中の人間が、「つなぎ」として試験監督をやるケースが極めて多い。
 だが俺は、四十代になろうかという現在に至るまでに、何百何千回も試験監督を勤めてきた。
 他の仕事をしたこともあるが、今でも生活の基盤は、あくまで試験監督による報酬である。
 俺の知る限り、こんなライフスタイルを送り続けているのは、他にはいない。

 

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