幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

幻影草双紙56〜祖国を防衛せよ〜

   

 皇国の興廃、此の一戦に在り。
 各員、一層奮励努力せよ。

 

 永禄11年のことである。
 織田信長は、足利義昭を奉じて上洛し、京都の混乱を平定した。
 足利義昭は第15代将軍になったのである。
 これで一件落着ではある。
 だが、まだまだ、天下布武への道は遠い。
 やるべきことは、沢山ある。
 その日、織田信長は、忙中の閑を得て、本能寺で開かれた連歌の会に出ていた。
 さよう、あの本能寺である。
 しかし、未来の事が分かるはずはない。
 今の織田信長にとっては、京都の一つの寺、でしかなかった。
 連歌が終った後、織田信長は、寝所で地球儀を見ていた。
 地球儀を見ていると、さまざまな野望が湧いてくるのだ。
 そこに、声がかかった。
「殿」
「何だ?」
「ぜひ、お目にかかりたい、と申す者が参っております」
 平凡な人間なら、寝る前に面会とは失礼だ、と怒るであろう。
 だが、織田信長は、当たり前のように、言った。
「通せ」
 入ってきたのは、織田信長と同年配の男である。
 野望で、眼が輝いている。
 だがその野望は、織田信長のそれとは違うようであった。
 男は、丁寧に挨拶をした。
「土御門無間と申します」
「土御門? 陰陽師か?」
「さようでございます。殿様におかれましては、今度の上洛の件、まことに……」
「余計な事は、よい。用件は何だ」
「されば、キリスト教にござります」
「キリスト教?」
「昨今のキリスト教の繁栄、如何、思われますや」
「む……」
 織田信長は、この男、いいところを突く、と思った。
 織田信長は、新し物好き、である。
 南蛮人と貿易をして、西欧の珍しい文物を盛んに取り入れていた。
 もっともっと、西欧の事を知りたい――。
 いずれは、西欧まで征服してやる――。
 しかし、南蛮人との交流では、必ずキリスト教が問題になる。
 南蛮人は、貿易の交換に、キリスト教の普及を要求するのである。
 そして、宗教の問題が難しいことを、織田信長は、いやというほど知っていた。
 ただ今現在ですら、仏教各派と緊張状態にあるのだ。
 そこに西欧のキリスト教が加わったら、どうなるであろう。
 もちろん、織田信長の辞書に、〈弱気〉という言葉はない。
 彼なりに、戦略は、考えていた。
 キリスト教の侵略を、断固として食い止めてやる。
 織田信長は、土御門無間に答えた。
「策は、考えてある」
「さようでございましょう。しかし、敵が、殿様がお考えになっているのと、違っていては、策も変えねばなりません」
「どういうことだ?」
「これまでは、南蛮人は、貿易を餌にしての懐柔で、キリスト教を広めてきました」
「敵に対する常套手段じゃ」
「しかし、敵が、大軍で一気押しをして来るとするならば、如何いたしますか?」
「ふむう……、敵も、ついに、そこまでの決心をしたか。それなら、こちらも策を変えねばなるまい」
「さようでございます」
「だが、大軍での一気押し……、何故それが分かった?」
「常日頃から、陰陽で、我が国の安寧を見守っております。昨日の易で、キリスト教の大軍がやってくる、と分かったのでございます」
「分かった。そして、お前なら、それを撃退できる、と言うのだな」
 土御門無間は、断固とした決意を顔に出して、答えた。
「御意」
「よし、お前に任せる。この事、猿に言っておく。あやつから、必要なだけ、軍資金を受け取るがよい」

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 第四話 企業内要塞学校(11)

ヤラズガタリ

家元 第五部 和義と琴乃(前編)

モノクロビオラ 2章

倒れ受け