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札付け

   

杉浦は、強盗相手の「札付け」という裏稼業を行っていた。
後ろ暗いところがあって、警察を介入させられない家や店をピックアップし、それらの物件に「札」をつけ、襲撃する権利を競りにかけるのだ。

強盗をしてもパクられたくはないという連中に「札付け」は大いに受け、杉浦はは莫大な稼ぎを手にすることになるが、ある日、危険な儲け話を持ちかけられる……

 

「兄貴、調査の依頼が来ていますよ。相変わらずの盛況ぶりですね」
 俺がオフィスでくつろいでいると、子分の柴原が駆け込んできた。
 服装をきちんとしろとは言っているのだが、いつまで経ってもチーマー時代のクセが抜けない。
 俺は、大袈裟にため息をついて、視線を柴原に合わせた。
「まったく、どいつもこいつも俺を頼ってくるな。タタいといて、そんなにパクられるのが嫌かね」
「少しでもリスクを減らしておきたいんでしょ。世間を騒がしたくはないのかも知れませんね」
 柴原は、顧客の身勝手さを軽く笑った。
 もっとも、その笑いには、嘲笑だけではなく、してやったりの成分が含まれているように思えた。
 実際、俺たちは客に文句を言えるような立場でもない。
 悪いクセにリスクを嫌う連中がいない限り、こちらの仕事もないのだ。
「まあ、いい。早速『札』、付けに行くぞ。タレ込みがあったんだ。」
「うっす」
 話をそこそこで切り上げ、俺たちはオフィスの外に出た。

 俺たちは、外回りの営業をしている会社員の風体を装って、駅から五分ぐらい行ったところにあるマンションに足を運んだ。
 一見、駅を中心にした開発計画によって建てられた、何の変哲もない住宅である。
 しかし、その実態は、一部屋が違法ゲーム喫茶、一部屋が裏モノのパチスロ、テナントに入っているネットカフェも、オンラインカジノのサービスをやっているという、裏バクチマンションなのである。
 元々、堂々と看板を出して経営していた裏系の店に、「手入れ」、摘発が入りそうだったため、設備ごと移転して難を逃れたというのが、こんなマンションが誕生したいきさつだが、実際、なかなかうまくできている。
 看板を出していない分、秘匿性は高いし、顧客をマンションの住人に絞れば、秘密保持性はさらに高まる。
 同じ裏モノと言っても、DVDを売るわけではないし、薄利多売で、リスクを負うこともない。
 場合によっては、何年も経営していくこともできるはずだ。
 ただ、だからこそもっと悪い連中には狙い目になる。
 場所を突き止めて、タタいて(強盗して)しまえば、儲けは丸ごと手に入る。
 明確に犯罪をしている連中は、滅多なことでは表沙汰にはできない。
 金が戻ってくるかも分からない状況で、自分たちだけ牢屋送りではまったく割に合わない話である。
 こうした情報は当然、一部の特にタチの良くないワルにとって、極めて価値があるものだ。
 具体的に言うと、まっとうな手段で金を稼ぎたくはないが、バクチをするのも嫌で、警察にパクられるのも嫌、しかし、リスクを負いたくないという連中は、こうした店の情報に金は惜しまない。
 この手の店は、いずれ摘発されるから、時間との勝負でもある。 だからこそ、俺の「仕入れ」が高い価値を生むというわけだ。「うっし、行くか」
 駅の構内で買った缶コーヒーを飲み干して、俺たちはマンションの中へと進んだ。

 

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