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ノンジャンル

新しい戦争

   

今年で二十八歳になるジェイク・タニハラは、一見どこにでもいる青年である。

仕事に苦労している風もなく、朝の出勤ものんびりである。特に人に誇れるほどの経歴や資格があるわけでもなく、熱意があるようにも見えないタニハラだが、実は、IT時代の「新しい戦争」を担う人材の一人であった。

しかし、戦争と言う割には、彼の勤務状態はお気楽なもので、傍目からは、ジュースやお菓子を飲み食いしながら、ネットサーフィンをしているだけのようにも見える。

緩い人間が、緩い職場で遂行していく「新しい戦争」の、簡単で恐るべき実態とは……?

 

 ピピピ……、ピピピ……

 目覚まし時計が、ジェイク・タニハラの意識を、夢から現実へと引き戻した。
 タニハラは軽く目を擦り、時計の方に顔を向けると、慌ててベッドから飛び起きた。
 セットしておいた時間が、休日用だったのだ。今日は、本来なら、後三十分は早く起きていなければならないところである。
「仕方ない。朝食は諦めるか」
 タニハラは、小さく呟いて着替えを始めた。
 一日の始まりとしては少しせわしないが、一食抜いたからってどうということはない。職場には軽食類が山ほど用意されている。
 クラッカーもあれば、コーラもある。
 上司に話をつければ、酒だって呑むことができるのだ。
「よしっ」
 着替えを済ませたタニハラは、鏡の前に立って頷いた。
 軍の制服を、きちんと着こなせている。
 ただ、タニハラの肉体に存在するかなりの量の脂肪が、軍服姿を、少々不似合いなものにしていた。
 体を動かす仕事ではないとは言え、少しはフィットネスにも気を遣うべきなのかも知れない。
 タニハラは、玄関に据え付けられている、チューブ式の走路線に身を投じた。
 本来だったら、五分ぐらいの道のりをゆっくり歩いて行きたいのだが、今日みたいに時間に追い立てられている時は、走路線を使うのも止むを得ない。
 何しろ、後一回遅刻したら、今月三度目ということで、給料を五%も減らされてしまうのだ。
 最高級の飛行式自動車の購入を控えている今、少しでも蓄えを保っておきたい。
 目をつぶって三十秒ほど、走路の動きに身を任せていたタニハラの体が、柔らかい床に放り出された。男女の賑やかな話し声と、音楽が聞こえてくる。
「おはよう、タニハラ君。重役出勤だね」
 体勢を立て直したタニハラに、ジョージ・サナダが声をかけてきた。
 サナダは、タニハラたちが属する組織のトップである。
 軍隊にも籍を置いているが、周囲の人間に「課長」と呼ばせているぐらい、軍人気質とはかけ離れている。
 とは言え、仕事ぶりは的確で、人事考課も公明正大である。
「もっ、申し訳ありません。つい、寝過ごしかけてしまいまして」
「いやいや、悪い。ちょっと言ってみただけだ。始業時間前なのだから、謝ることでもない。ただ、うちは成果主義だからね、仲間に置いていかれなければいいが」
 サナダは、軽く右手を上げて、自分の席に戻った。
 もう「競争」は始まっているのだ。
 ターゲットは無数にあるが、奪い合いであることには変わりない。タニハラも急いで席につき、検索エンジンに、少し卑猥なスラングを入れてみる。
 最新鋭のコンピューターは実に優秀で、瞬時のうちに、数十もの魅力的なサイトを探し出してくれた。

 

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