幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

幸子 第二回 夢に向かっていた頃(15歳〜19歳)

   

私、関口誠一は昭和47年4月に高校に入学し、そこで澤田幸子(旧姓今井)と出会った。男子は飯田君、三沢君、女子は橋本さん、木村さんと「仲良し6人組」を結成し、私たちはそれぞれが将来の夢に向かって真っすぐに進んでいた。
幸子と木村さんは現役で、飯田君、三沢君、橋本さんは1年の浪人の後、志望大学に合格。私は静岡県の医科大学に合格し初めての下宿生活。6人揃った祝賀会の帰り、私は幸子に文通を申込み、これが遠距離恋愛のスタートになった。

 

第三章 出会い

昭和47年春。

私、関口誠一は江戸川区小岩の中学を卒業し、墨田区にある都立高校に入学した。その当時、都立高校は学区割が厳格に運営されていたため、私が入学した高校は墨田区、江東区、葛飾区そして江戸川区に住んでいる生徒だけが受験できた。

初めての電車通学で家から高校までは約40分くらいかかった。
小学校、中学校までは家から歩いて5分程度で、学校の周りが花畑だったので、初めて〝町の学校〟に通う感じがした。

入学した高校は1学年9クラスで、男子のみのクラスが3つあり、他は男女一緒だった。私のクラスは男子が25人、女子が20人の総勢45人だった。

澤田幸子、旧姓今井幸子もその一人だった。彼女は葛飾区金町の中学を卒業し、この高校に入学した。

当時は道路等を含めた社会基盤の整備の違いから、意識面で自然と「墨田区、江東区出身=都会育ち」、「葛飾区、江戸川区出身=田舎育ち」と区分けされていた。

その区分けに従えば、私も幸子も〝田舎育ち〟だった。
そのせいもあったかは解らないが、入学したばかりの一学期は、クラスのそれぞれが地を出すことなく、よそよそしいところがあった。

しかし、高校での生活は毎日が新鮮だった。

入学式で校長先生は次の言葉で私たちを迎えてくれた。

「入学おめでとう。イギリスのイートン校では、生徒の自主性を尊重し、全てそれに判断を委ねるところがあると聞いています。
 あなた方はもう大人です。私はイートン校と同様にあなた方の自主性を尊重します。
 ですから、みなさん、自律心、そう自分を律する心です、それを持って行動して下さい。」

その通り、授業は厳しく、進むのは早かったが、教科書に載っていないことを質問しても、「おお、なかなか面白いところを調べたね。」といって詳しく説明してくれる先生が多かった。

しかし、予習をしていないと「おのこ(男の子)もおなご(女の子)も額に汗して頑張る、近道なんかないよ。」、「無知蒙昧、傲岸不遜、粗暴野卑」、「田舎の中学では出来の良い子も、ここでは普通の子。」、さらに「学校辞めるなら早い方がいいよ。」などと言われてしまう。

校長先生の言葉通り、〝自律心〟が全てに求められた。

〝花畑の中の学校〟で育った私には、これらのことを含め、毎日が刺激的だった。

そんな雰囲気の中、私と今井幸子は同じクラスとは言え、一学期は話をすることはなかった。

しかし、夏休みの臨海学校、クラブ活動の合宿などに参加してからは、調子のいい奴、武骨な奴、よく気が付く女の子、とそれぞれの持ち味が出てきて、まとまった非常に楽しいクラスになっていった。

昭和47年秋。
二学期が始まるが、まずは文化祭。

前哨戦として、9月は1ケ月かけて全学年が参加するクラスマッチが放課後に行われた。
男子はサッカー、バレーボール、柔道、女子はバレーボールとバスケットボールだ。
それらのメインイベントとして、10月1、2、3日が前夜祭、舞台での演劇・音楽祭そして体育祭と3日間続き、その間は授業がなく、学校中は大騒ぎになる。

私はサッカーが好きだったのでクラスマッチに参加した。幸子はギターが得意で、クラスメートの女の子と組んでシモンズの〝恋人もいないのに〟を前夜祭で歌った。当時はフォークソング全盛期で、人気者になっていた。

クラス全員が仲良しグループと言う訳ではなく、男子は5~6人のグループが2つ、女子も同じような感じで、それ以外は「呼ばれれば参加する」という感じの繋がりだったが、9月~10月の文化祭を通じて一挙にクラス全員のまとまりが強くなった。

11月、都電が荒川線を除き、全て廃止された。
通学に都電を利用していた者が多く、教室のあちらこちらで、「これからバス通学だね。」という話が聞こえる。

昭和47年冬。
二学期が終わり、冬休みに入った。

その日は朝からラジオを聞きながら古文の勉強をしていた。

冬休みの宿題が小倉百人一首の全訳だ。猫の〝地下鉄に乗って〟を聞きながら、ようやく20首まで訳し終え、〝まだまだ、半分もできていないや〟と思っているところに、同級生の飯田君から電話がかかってきた。

「もしもし、飯田だけど。百人一首、どこまでできた?」
「まだ、20首だよ。なかなか進まないな。」
「頑張ってるじゃないか。
 俺なんか、まだ10個もできていないよ。
 そこで相談なんだけど、一緒にやらないか。
 例えば、お前が最初から40まで、おれが41から70まで、71から残りが恵美ちゃん。」

〝恵美ちゃん〟とは同じクラスの橋本さんのことで、飯田君と橋本さんは幼稚園からの幼馴染で家も近所らしい。

「分かった、いいよ。そうだな、年内に形をつけたいから、明後日の30日に深川図書館はどうだ。」
「OK。明後日の午後2時にしよう。じゃあな。」

助かった。なんとか目処がたったと思ったが、分担が40までだから、残り20首だ。頑張ろう。

そして12月30日(土)。
深川図書館に行くと、飯田君、橋本さんの他、同級生の三沢君、木村悦子さんと幸子も来ていた。
「おお悪いな。分担が多くて大変だから、もう二人にも電話して、5人で12首づつ、手分けしてやってきたよ。」
「俺だけ40首かよ。ずるいな。」
「まあ、お前なら大丈夫だって恵美ちゃんが言うから。
 ごめんな。」

フットワークのいい飯田君らしい。まあ、いいか。
その日、お互いのノートを交換しながら、みんなで百首を訳し終えた。

「関口、助かったよ。でも、楽しかったな。」
「そうだね。また、こういうのやってもいいね。じゃあな。」

午後6時、外はもう真っ暗になっていたが、とても楽しい気分でバスに乗って帰った。道路には都電の線路がまだ残っていた。

 

-ラブストーリー


コメントを残す

おすすめ作品