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SF・ファンタジー・ホラー

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 篠原みづきの奔走 中編

   

 ヤナセさんの面倒を見ているうちに亡くなった祖父が重なる私・篠原みづき。ヤナセさんと接していくうちに祖父になにもしていなかったことに気づき、祖父への罪滅ぼしのように振る舞う。
 ファミレスでの食事の後、市役所に帰ろうとした私の前からヤナセさんは忽然と消えた。
 異世界ハートフルコメディ『にゃんと素敵な東雲市役所猫支店』第2弾中編。

 


 
 エレベーターから降りて、裏口からこっそりと出て行く。
 梅雨明け宣言が出たのはこちらも同じらしい。外はむわっとしたべたつく熱気に包まれていた。市役所正面のシュプレヒコールはまだまだ止みそうもない。
 私の時計がこの世界でも正確なら、現在20:39。あぁ、お腹空いた。
 それはヤナセさんもおなじだったらしい。
「ホテルパークランドはどこかね。あそこが一番美味い。そこで食事にしよう」
 パークランド? 私が子どもの頃にあったホテルだ。不況のあおりをくらって、経営難で潰れてしまった高級ホテル。一度だけ祖父と最上階のレストランで食事をしたことがあるが、あいにく味は思い出せない。
「パークランドはもうないので、ほら、あの……あそこにしましょう」
 市役所前通りの一本奥に、いかにもファミレスですという黄色い看板があったので、指をさす。あれ多分、私の世界にもあるやつだ。
「美味いんだろうね」
 知らねえよとは言えず。
「大丈夫ですよ。安いですし。行きましょう」
「安いと美味くないだろう」
「美味いですよ」
 ファミレス舐めるなと言いたいところだが、ヤナセさんはどう見ても八十を超えているので安い=不味いの発想になるらしい。
 ファミレスの常連のお年寄りなら、色々分かるだろうが、高級品を身につけ、パークランドという高級ホテルを常連にしてるヤナセさんには分かるまい。
 横断歩道を渡って、ファミレス・ドーニーズに向かう。
 この世界の通貨を持ってないことに思い至ったが、お財布の中に一枚のカードを持っていたことを思い出した。
 スウィングドアを引くと、いらっしゃいませーと元気の良い多種多様な店員さんが、出迎えてくれる。
「これ使えます?」
 財布から取り出した銀色のカードを恐る恐るレジ係に差し出す。シュッと尖った耳を持つ店員さんはおっと目を丸くした。シェパードだろうか。全体的に引き締まった顔と体つきをしている。
「少々お待ちください。今ご用意しますので」
 ごそごそとカードリーダーを取り出す。
「スリットにカードを通してください」
 言われたとおり、スリットに滑らせると《申請が受理されました》というアナウンスが流れた。
「はい。ありがとうございます。二名様ですね。お席にご案内します」
 ……やー、良かったこのカード持ってて!
 ほうっと大きく息をついた私の背中に、ヤナセさんの興奮した声がかかった。
「あんたVIP会員かね」
「そんなところですかね」
 ヤナセさん、めちゃくちゃ驚いてる。いや、全然VIPじゃないんだけど。
 さっき差し出したのは異種族カードという物で、私は携帯を義務づけられている。
 万が一また迷い込んで非常事態になった場合、カードを提示すれば万事オッケーらしい。カードの裏には、各種機関の電話番号も記されている優れ物だ。
「あんた、女だてらに凄いんだな」
「いやいや、そんなことありませんよ」
 現実世界の私に《東雲市役所猫支店》とロゴが入った封筒が届いたのは、前回ここに来てから一週間後だった。中には説明書類と銀色の異種族カードが同封してあったというわけだ。
 ちなみにどういう仕組みか分からないが、この世界でお金を使った場合、請求はちゃんと私に来るらしい。要するに免許証とクレジットカードが合体した物だ。
 シェパードの店員さんが「こちらにどうぞ」と席に案内してくれる。うーん、普通のファミレス。違う点は店員とお客だけ。店内は時間が時間なので、じゃっかん混んでいるが私たちは複数人用のボックス席に座れた。
 お決まりでしたらお呼びくださ~いと店員さんが頭を下げて、下がっていく。

 

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