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幻影草双紙60〜黒電話3(前篇)〜

   

 旧電電公社の黒電話。
 飽きのこないデザインだとは思いませんか?

 

 
 樋口継男は、ハイデルベルクのメインストリートを、ゆっくりと歩いていた。
 ハイデルベルクは、ドイツの由緒ある町である。
 古城が残り、ドイツ最古の大学があり、対岸の丘の上には、散歩道が続いている。
 散歩道から見ると、川に架かる石橋の向こうに、家々が集まり、それを守るように、古城がある。
 絵になる光景だ。
 ここは、フェルスターの『アルト・ハイデルベルク』の舞台である。
 留学でハイデルベルクに来た王子ハインリッヒが、宿屋の娘ケーティに恋をして……、という悲恋物語。
 ハイデルベルクは、心をときめかせる場所なのである。
 遠くから思っている限りは……。
 実際に来て、町を歩いてみると、違う。
 それほど広くないメインストリートは、世界各地からの観光客で、混雑していた。
 日本の著名な繁華街そっくりである。
 現実はこんなものだ、と樋口継男には分かっていた。
 樋口継男にも、苦い経験があるのだ。
 高校を卒業してから20年後、同窓会があった。
 あのとき好きだった人は、どうなっているだろうか?
 樋口継男は、心をときめかせながら、同窓会へ出席した。
 その人は、ただの太ったおばさんになっていた。
「子供を産むたびに太っちゃってさぁ。戻らないで、そのまんま。がっ、は、は、は」
 これが現実なのだ。
 だが、夢を忘れてはいけない。

 

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