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幻影草双紙61〜黒電話3(中篇)〜

   

 地図を見ると、中国の西方に、崑崙山脈があります。
 これは、伝説の崑崙山から命名したのです。

 

 
 樋口継男の机の上にある、黒電話のベルが鳴った。
 ドイツで買ってきた、旧電電公社時代の骨董品である。
 樋口継男は、黒電話を見つめた。
 もちろん、電話線に繋がっているわけではない。
 中に、最新の無線電話が組み込まれているのでもない。
 樋口継男は、日本へ持ち帰って早々、黒電話の中まで掃除をした。
 最新の電子機器などは、見当たらなかった。
 古い、昔の機械そのままが、ほこりにまみれているだけであったのだ。
 それが、何故、鳴るのか?
 樋口継男は、じっと、黒電話を見つめた。
 現実には、有り得ないことだ。
 だが、現実に、ベルが鳴っている。
 現実が、どこかで、別な世界と繋がったのか?
 樋口継男は、ゲーム制作会社の社長である。
 ファンタジー、別な世界、異世界などを受け入れる下地はあった。
 受話器を取る。
「もしもし。『魔道士スミス』ですが」
「あ、あなた、スミスとおっしゃるのね? スミス魔道士様」
 若い女の声であった。
 どことなく、気品がある。
 樋口継男は、相手の素性を探るために、慎重に相槌を打つことにした。
「え、ええ。そうですが」
「よかったわ。やっと、魔道士の方とお話し出来る……。魔道の手続きを間違えたのじゃないかと、心配でしたの……」
「魔道の手続き、ね?」
「ええ。苦労して宝螺貝を手に入れたのですけれど、魔道の手続きの方が……、なにしろ太古の巻物ですから……」
「あ、あのう……、ちょっと、待って……」
「ああ、ごめんなさい、スミス魔道士様。わたくしばかり、話してしまいまして」
「き、君は誰だい?」
「わたくしは、黄桃。紫雲国の姫でございます」
「アンズ?」
「黄色い桃、と書いてアンズと読みます」
「黄桃姫? 紫雲国? それは、何処にあるの?」
「ああ、失礼いたしました。魔道士様にお願いするのですから、先ず、身元を、お伝えしなければなりませんわね」
「そ、そうとも」
「紫雲国は、崑崙山の中腹にある国でございます。わたくしが住んでいるのは、水晶城……」
 次第に声が小さくなり、切れた。
 樋口継男は、受話器を置いて、黒電話を見つめた。
 どういうことだ?
 白昼夢?
 樋口継男は、頬をつねった。
 痛い。
 夢ではなさそうだ。
 誰かの悪戯?
 だが、黒電話に細工は見当たらない。
 とすると、考えられることは……。
 異世界、魔法の世界と繋がったのか?
 樋口継男は、株式会社『魔道士スミス』の社長として、現実主義者である。
 もし、異世界と繋がったのなら、ファンタジー・ゲームが出来るではないか、と考えたのだ。
 とすると、電話が待ち遠しい……。
 樋口継男は、机を開けた。
 ICレコーダーとマイクを取り出す。
 マイクを黒電話にセットし、ICレコーダーと接続した。
 そして、黒電話が鳴るのを、待った。

 

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