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ラブストーリー

幸子 第三回 育む愛(20歳〜26歳)

   

昭和51年4月、私は静岡県の医科大学に進学し、東京にいる幸子とは手紙の交換による遠距離恋愛がスタートした。互いに大学生活のこと、将来のことなどを語り合い、互いの気持ちを確かめ、双方の両親に紹介し、将来を誓い合っていた。
昭和54年、幸子は大学を卒業すると福祉の仕事につき、私はその3年後の昭和57年4月、医師国家試験に合格。
いよいよ、医師として歩み始めることになった。

 

第四章 手紙が繋ぐ恋

昭和51年4月、父が胆石の手術を受けた。

私の受験が終わる迄は痛みがあっても、「大したことはない。」と言って病院にも行かなかったが、ようやく4月の初めに病院で検査を受けたら、その場で医師から即刻、入院の上、手術することを告げられた。

これまでなら、「仕事の区切りがついてから」等と言うところだが、今回は素直に医師の指示に従ったらしい。

私は大家さんの電話を借りて、母に電話した。

「やはり、お前のことが心配だったけれど、進路が決まって、お父さん、ほっとしたんだよ。」
と母が話してくれた。

「それから、お父さんね、「誠一はこんなことで帰って来なくていい。」と言ってた。こっちは博が立ち会ってくれるから大丈夫よ。しっかり勉強しなさい。」
と言って母は電話を切った。

1つ下の弟の博は現役で早稲田大学に入った。本来なら私が立ち会うべきだと思うが、両親と弟の気遣いに素直に感謝した。

昭和50年代の下宿生活では、現在とは違い、携帯電話、パソコンなどは無い。それどころか、下宿に電話を引くことすら、ありえなかった。電話が必要な時は大家さんに借りるしかなかった。

従って、東京にいる幸子と浜松市にいる私の連絡手段は手紙だけだった。

6月、最初の手紙を書いた。

 今井幸子様
 お変わりありませんか。
 ようやく独り暮らしに慣れて来ました。
 下宿はアパート形式で2階の部屋を借りています。
 夕食だけ大家さんのおばあちゃんが作ってくれます。
 同じ大学の三年生が1人、二年生が2人、そして、一年生の私を加えて4人がここで暮らしています。

 また、高校の先輩が二年生に2人在籍しています。
 毎週、同窓会をやっています。簡単ですが、近況報告です。

 誠一

7月、幸子から初めての手紙を受け取った。

 関口誠一様、お手紙ありがとうございます。
 お元気の様子、何よりです。浜松は東京より暑いですか?
 こちらで大学は冷房がないので、困ります。
 高校はよかったですね、冷房があって。

 話は変わりますが、モントリオールオリンピック、見ました?
 バレーボール、今度は女子が金メダルですね。
 こちらでは、橋本さん、飯田君と時々会っています。
 みんな、あなたが帰省するのを楽しみに待っています。
 連絡下さい。

 幸子

そうだ、私たちの高校は昭和40年後半には都立高校なのに二重窓、冷暖房完備だった。
首都高速が近かったので、騒音対策のモデル校に指定されていた。

8月、夏休みで帰省。
飯田君、橋本さん、幸子と会った。
「朝、1人で起きられるかな?遅刻しないのか?」
と飯田君から聞かれた。

「関口さんは孝雄ちゃんとは違うから、大丈夫よね。
 孝雄ちゃんのおばさん、今でも私のお母さんに言ってるのよ、「うちの孝雄、まったく起きないのだから。」って。」
「しょうがないな、お袋、そんなこと迄しゃべっているのか。」

飯田君は頭をかきながら苦笑いしていた。

「いやいや、僕も時々寝坊しちゃうんだ。
 そうするとね、大家さんのおばあちゃんが「具合でも悪いの?」って起こしに来てくれるんだ。
 好い人なんだ。下宿している僕らを孫と思ってくれているんだ。」
「そうなの。面白そうね。
 ところで、幸っちゃん、今年はどの山に行ったの?
 私はテニス部で山中湖合宿だったけど。」

橋本さんは高校と同じくテニス部に入ったようだ。

「今年は立山に行ったの。帰りに黒部ダムを見てきたわ。
 自然は凄いけれど、そこにダムを作った人間って、もっと凄いと思った。」
と幸子は夏合宿のことを話した。

「でも、今井さんが山岳部なんて信じられないね。」
「そう、孝雄ちゃんとよく話をするんだけれど、本当ね。」
「恵美ちゃんも飯田さんも驚くのは無理ないと思うわ。
 私も自分で大丈夫かなと思ったけれど、チャレンジして見たの。
 兄が山岳部だったから、その影響ね。」

久しぶりに仲間に会えて楽しかった。

11月。

 今井幸子様
 秋も深まり、少し寒くなって来ましたね。
 風邪などひいていませんか?

 こちらの学園祭が先週末に有りました。
 幸子さんの大学のような華やかさはありませんが、出来たばかりの大学なので、本当に手作りの学園祭です。
 高校時代のような感じです。
 以前お話しした高校の先輩二人と連夜“同窓会”です。

 同封の写真は大学の正門で撮ったものです。
 山の中に校舎がぽつぽつと建っているだけです。
 楽しく勉強しています。

 誠一

12月。

 関口誠一様
 お手紙ありがとうございます。
 冷え込んできましたので、体に気を付けて下さい。

 お正月、帰省しますか?
 それから、成人式は江戸川区で出席するのか、浜松市で出席するのか教えて下さい。

 幸子

 今井幸子様
 葉書ありがとう。
 お正月に帰省します。成人式は帰省出来ません。
 お正月に会えますか?

 誠一

 関口誠一様
 返事ありがとうございます。
 お正月に会いましょう。楽しみにしてます。

 幸子

昭和52年1月1日、幸子と初めてのデート。

私は幸子の希望も聞かず、国立競技場にサッカー天皇杯の決勝を見に行った。幸子はせっかく振袖を着てくれたのに、私はこんなところしか思いつかなかった。
帰り道、成人式にはまだ早かったが、金町駅近くにあった写真館に立ち寄り、せっかくだからと成人の記念にと二人で写真を撮ってもらった。

その頃から、私は彼女のことを「今井さん」から「幸子さん」、「幸子」と、幸子は私を「誠一さん」と呼ぶようになった。

 

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