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にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 篠原みづきの奔走 後編

   

 市役所に戻ってきた私たちを待っていたのは、未だ熱の冷めないストライキ集団だった。ヤナセさんを救世主のように迎えるストライキ組を、フクちゃんは何とか抑え込もうとするのだけど……
 第2話終幕!
異世界ハートフルコメディ『にゃんと素敵な東雲市役所猫支店』第2弾後編

 


 
 22:22
 猫の時刻に、市役所に帰り着く。
「あぁ、失敗した」
 呟くフクちゃんは、げんなりとした。玄関前は未だストライキの真っ最中だった。
「狭いけど裏に車回すわ」
 ギアをバックに入れて、切り返しをしようとハンドルを切ったフクちゃんが急ブレーキを踏んだ。
「うわうわうわうわっ! なに!?」
 後部座席で叫ぶ。フロントガラスにべったりとストライキ参加者たちが張りついていた。暗闇の中で無数の目が光っている。
「フ、フクちゃん!」
「じっとしてて。連中、ピリピリしてるから」
 フクちゃんがパーキングに入れて、停車させる。あっと言う間に群衆が詰めかけ、車を取り囲んだ。小型の電気自動車はゆらゆらと揺さぶられる。
 芦葉くんは青ざめ、フクちゃんはじっと睨んでいた。
「ヤナセさんだ! ヤナセさん!」
「ヤナセさーん! 助けに来てくれたんですか!?」
 なんだなんだ。参加者たちのこの期待に満ちた目は。
 私もフクちゃんも芦葉くんも、気圧されて一言も発言できない。まるで神様でも現れたかのような、熱狂的な歓声と空気だった。
 いつもご飯ありがとうございます! 本当にありがとうございます! と叫ぶ若い母親もいる。
 ぼんやりしていたヤナセさんの眼差しに急に力が戻った。
「ヤナセさん? どうしたんですか?」
「こいつら、儂が餌をやってる猫どもだ」
「は? え?」
 ヤナセさんこの人たちのこと、どう理解してるの? 猫に見えてるの?
 ヤナセさんは運転席を覗き込むと、フクちゃんの肩を叩いた。
「のう、べっぴんのお嬢さん。ここから出してくれないかのう。儂は挨拶せにゃならん」
「危険ですので許可できません」
「そうか。なら仕方ない」
 ヤナセさんはロックを解除し、車外に降り立った。
 群衆が地響きのようにどよめく。
 フクちゃんはちっと舌打ちし、芦葉くんは紙のように白くなり、私は唖然とした。
「仕方ない。降りるわ」
 シートベルトを外したフクちゃんと芦葉くんが車外に出るので、つられて私も出た。
 ヤナセさんは大勢を前に矍鑠として、尽きることがない一人一人の感謝の言葉に鷹揚に頷いていた。 
 何なの、これ……どういう状況なの?
「市長はヤナセさんを出してきたのか!?」
 何重もの人垣の向こうから、誰かが声をあげる。
「は? なに? なんのこと?」
「違うわ!」
 叫ぶフクちゃんに重なるように、拡声器で尋ねられた。
「だから! 地域猫保護派のヤナセさんが我々と和解交渉をするのかという話だ!」
「は? 芦葉くん……どういうこと?」
 芦葉くんはひょろっこい体を丸めて、怖さのあまり涙目になっている。
 ……仕方ないので、彼を背後に庇った。
 フクちゃんは、何とかこの輪を切り抜けようとするが輪は狭まりつつある。無駄な足掻きらしい。
「聞きなさい! この方は、認知症の症状が――」
「ヤナセさん! 我々は今、あなたが保護した地域猫たちが殺処分になる可能性を危惧している。市長は殺処分を止むを得ないことだとしているが、あなたはどのようなお考えか!?」
 代表とおぼしき凄味と厚みのある茶トラ猫が、人垣をかき分けてヤナセさんの前に立った。全身傷だらけで、頬に傷もある。まるでヤクザのようだ。しかしどうやら市役所職員らしい。何課なんだ……。
「花菱代表! この方は認知症の症状があるため、たとえどんな発言をしても正規の見解ではありません。なにより、市長はヤナセさんを和解交渉の場に派遣してません」
 フクちゃんは努めて平静に言った。仁王立ちもいつもの腕組みもしてない。
「花菱代表――」
 なおも言いつのろうとするフクちゃんを押しとどめたのは、ヤナセさんだった。

 

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