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幻影草双紙63〜千両箱〜

   

 千両箱は、ヒノキか樫で出来ていて、鉄枠で補強されています。
 小判で千両を入れると、15Kgほどの重さになります。

 

 男は、明智藤吉郎と名乗っていた。
 どこかで聞いたことがあるような、わざとらしい名前ではある。
 だが、殺し屋としての仮名なので、覚えやすくて、いいであろう。
 そう、明智藤吉郎は、殺し屋なのであった。
 表向きは、ポルノDVDの紹介を、雑誌やネットに書くのを商売としていた。
 こういう商売にしておけば、人目につかない生活をしていても、理由は立つ。
 この商売で得られる収入は、中年の独身男性として、ギリギリの生活が出来る程度のものである。
 だが、その裏では、殺し屋として、莫大な収入を得ていた。

 明智藤吉郎の趣味は、歴史であった。
 テレビの時代劇は、欠かさず見ていた。
 例えば、『鬼平犯科帳』。
 盗賊が、商家の住人を皆殺しにして、大金を奪う――。
 明智藤吉郎は、ソファに座り、ウイスキーを飲みながら、(なんて悪い奴なんだ)と、憤慨する。
 鬼平が、組織力を総動員して、盗賊の棲家を発見する――。
「よし、出役じゃ」
(いいぞ、いいぞ)
 盗賊が、家を出ると、周囲には御用提灯が林立している――。
 御用提灯の真ん中にいるのは鬼平――。
 野袴に火事羽織、それに陣笠という恰好で、仁王立ちしている――。
「火付盗賊改である。神妙にせよ」
(名台詞だなぁ)
「や、鬼平。ちきしょう、捕まるものか」
 盗賊は、やぶれかぶれで、逃げようとする――。
「手向かいするか。貴様のような悪人、生かしておく価値はない」
 鬼平は、白刃を抜く――。
(鬼平、やっちまえ)
 盗賊は、簡単に、斬られてしまう――。
 明智藤吉郎は、手をたたいて喜ぶのであった。
(人を殺して金を奪う悪人が、栄えたためしはない。正義は勝つんだ)
 歴史好きということは、仕事にも活用できるのであった。
 殺し屋としての仕事は、日本全国に渡っている。
 標的の住む町へ行き、入念に事前調査をしなければならない。
 標的の住居、町の道路、万一の場合の逃走経路、などを調べるのである。
 見かけない人物が、町を歩いているのだ。
 疑われることもあった。
 そんなときには、趣味で町を調べている、と言い訳をするのである。
「私、歴史好きなんですよ」
 用意したパンフレットや資料を、カバンから出して、説明するのである。
「ほら、この資料によりますと、この町は、江戸時代の道筋を残しているんです。道幅は広くなったけれど、道の配置は、昔のままですね……」

 

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