幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

堕天使の鎮魂歌 4

   

篤志から聞かせられるセツの話は、予想していた通りだったとはいえ、やはりショックなものがある。
危険が伴っていると念を押す篤志だが、雅孝はそれでも彼の好意という形を受け取ることに躊躇する。

 

 

【淡い思い出】

 あの日、ビル下にあった篤志が任されていた店。
 俺が三上さんに会った2度目の日――あの時別れた後から、篤志の事情が変わったのだと言う。
「セツは、妊娠していたンだ。おまえみたいな子だといいって、まだ人の形にすらなっていないであろう、腹の子の事を嬉しそうに話していた。昼間、産婦人科に行くって、オレより先に部屋を出た。笑って、今度雅孝を誘って、食事しようって。オレがその日おまえに会うのを知っていたから、そう言ったンだと思う」
 だけど――そう言ったきり、篤志の言葉が詰る。
 それが原因だと、直ぐにわかるくらい、辛そうな顔を隠さず俺に見せた。
 篤志に、俺は何も声をかけられない。
 ただ、篤志の意思で話し出すのを待つだけだった。
「三上さんの仕事って知っているか?」
 突然話の矛先が変わるが、あえてそれについて俺は異議を唱えない。
 聞かれたことだけに、答える。
「詳しくは――だけど、普通じゃない」
「そう、普通じゃない。表では若手実業家ってことになっているけど、裏にも顔が利く。三上さんのスポンサーがかなりの大物だって噂だ。オレが以前任されていた店、表向きは飲み屋ってなっていたけど、実際は条例ギリギリだった。裏では結構なことをやっていたからな。オレはさ、もともと大物になってやるって、田舎飛び出してきたンだ。大物になる為の手段は選ばない。身元のない未成年が働ける場所なんて、限られるだろう? 最初、雇ってくれるってだけで嬉しくて、あの店のボーイから始めたンだ」
 それから暫くして、セツが押しかけるように篤志の所に転がり込んだのだと、言う。
 食扶ちが増えることもあって、ボーイからの昇格の話は、天からの救いのようだったと、苦笑しながら付け加えた。
 チーフフロア、フロアマネージャー、店長と順調に昇格していくにつれ、危険度も増していった。
 セツを部屋に閉じ込めるように、あまり外での仕事をさせなかったのには、危険から避けたかったからだと言うが、ならなぜ、あの時、ひとりで行かせたのかを、後悔してもしきれないと、唇を噛み締める篤志の姿に、俺は言いようのない後悔の中に、今もいるのだと感じた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


コメントを残す

おすすめ作品

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16