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幻影草双紙64〜天国への門〜

   

 イソップの物語です。

 

 イソップは、寓話の語り部として有名なギリシャ人である。
 例えば、次のような話がある。
 ――キツネが井戸へ落ちてしまった。
 ――通りかかったヤギに、井戸の水は美味いよ、と言う。
 ――それを信じたヤギは、井戸へ入る。
 ――ヤギは、水を飲んだ後、どうやって井戸から出るのか、キツネに聞く。
 ――キツネは、先ず自分が出るから、ヤギに踏み台になってくれ、と言う。
 ――ヤギは、踏み台になり、キツネは、井戸の外へ出る。
 ――ヤギは、井戸から出してくれ、と言うが、キツネは去ってしまう。
 こうした話を始めとして、彼の名を冠した『イソップ物語』は多数ある。
 イソップは、奴隷であったが、寓話の語り部として有名になり、自由を得た。
 だが、デルファイで寓話を話していたとき、市民の嫉妬から、殺されてしまった。

 殺されたときは意識を失うが、すぐに、死者としての意識を持つ。
 イソップが気が付くと、そこは、長い回廊であった。
 長い死者の列が続き、イソップは、その列の最後にならんでいるのである。
 彼の後ろには、全身が赤い怪物が、〈ここが列の最後〉と書いたプラカードを持って、立っている。
 全身が赤い怪物、つまりは赤鬼である。
 だが、ギリシャ人のイソップは、赤鬼を知らなかった。
 それに、列に並んでいる死者の衣装も、見かけないものである。
(何か、変だな)
 イソップは、赤鬼に、聞いた。
「あのう、ここは、どこですか」
「もちろん、黄泉の国。死者が、最後の裁判を受ける、裁判所の前じゃ」
「でも、私の知識にある黄泉の国とは、違うなぁ」
 赤鬼は、イソップの額を見た。
 額には、〈死者識別統一コード〉が記されている。
 赤鬼は、そのコードを読んだ。
「おまえ、ギリシャ人か?」
「そうですが」
「じゃぁ、無理もない。ギリシャ人なら、西洋区画へ行くはずだものな。ここは、東洋区画なんだ」
「東洋区画?」
「ああ。最近、西洋区画では、死者が多すぎて、東洋区画へ回されることがある」
「そんな無茶な」
「カルタゴやアラリアの海戦、それにイェルサレム崩壊なんかで、バタバタ人が死んでいるからな」
「それは、分かります」
「でもなぁ、東洋区画に回されるのは、迷惑なんだぜ。こっちだって、小国の乱立で、死者が多い。そらみろ……」
 回廊に、ぞろぞろと死者が来た。
 イソップの後ろに並ぶ。
 赤鬼は、〈ここが列の最後〉のプラカードを持って、イソップから離れて行った。

 

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