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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 1

   

 救いってなんだと思う? 
シオリがそう尋ねたとき、けったいでクソみたいなあたしたちの物語は始まったのだ――。
 鬱屈する高校生たち。その岐路を描いた新作8月のエンドロール開幕

 

プロローグ ほんとうの救い

「メグミはスクイってなんだと思う?」
 梅雨明け宣言がなされないまま七月に突入した、ある日のことだった。
 あたしの前。石原の席に陣取ったシオリは、椅子に跨がり、いつもの無邪気な笑みを浮かべてあたしを覗き込んだ。長い睫毛に縁取られ、少し青みがかった綺麗な目は誰彼構わず心の奥底を覗き込むようで、同性でもどきりとする。
「スクイって救済の救いかよ?」
 そうそうと頷くシオリは、
「聞いてみたかったんだよねえ」
 と舌っ足らずに応じた。
 なんでまた。
 そう返しそうになって、あぁ、と納得した。
 彼女が抱えている一生消えることのない傷に思い至ったのだ。
 シオリは折に触れて、自分が受けた傷にまつわる謎をあたしに寄越した。
 今回はそれが〝救い〟ってことだ。
「哲学的だな」
「そう?」
 無邪気に首を傾げるシオリ。
 とろけるシュークリームのような甘い美貌を彩るメイクの下。シオリの素肌はケロイドにまみれてでこぼこだ。幼い頃、実母に折檻を受けて根性焼きをされたらしい。
 彼女が夏でも半袖を着ないのは、身体の至るところに虐待を想起させる負の刻印があるから。そのためのフルメイクと長袖、黒のストッキングだ。
 シオリを地獄から助け出したのは、父親だという。町家の姓は父親の物だ。
 しかし、その父親もまたシオリを家庭に迎え入れることが出来なかった。
 妻と離婚後、すぐに再婚していたのだ。
 だからシオリは十五からこの比野市のワンルームマンションで、父親から援助を受けて一人暮らしをしている。 
「てか、またなんかあったのか? この間のあたしが殴って追い払ったストーカー男? あいつがまた来たとか?」
「んー? 別に。なんにもないよ」
 十五という多感な時期、シオリは詳しく話さなかったが、それ以前から彼女は愛情に飢えていた。
 そのせいか、彼女は求められれば誰とでも寝た。
 もちろん同性とでも。
 この高校――第一大学附属でシオリと関係があり、彼女と寝たことがない奴はあたしだけだろう。
 彼女は関係を持ったことがない奴らから公衆便所と呼ばれていたが、その実、抱いた奴らはシオリの胸の中で言いようのない安心に満たされるという。
 反吐と神性が同居したような、変な女だった。町家 シオリという女は。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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