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幻影草双紙65〜誰?(前篇)〜

   

 あれは一体……。

 

 石川良太は、平成錦秋大学の2年生である。
 大学へ入るまでは、紀伊半島の山の中から一歩も出たことがなかった。
 大学の受験で初めて東京に来て、大都会の大きさと豪華さに、腰を抜かしてしまったのであった。
 平成錦秋大学へ向かうバスは、私鉄の新茜が丘駅から出る。
 新茜が丘駅は、近年、再開発されて、近未来的に生まれ変わった。
 駅に隣接するショッピングモールは、関東地方最大級のものである。
 石川良太にとっては、やはり、腰を抜かした場所であった。
 そうしたわけで、石川良太が出かける場所は、新茜が丘が精一杯であった。
 東京都心など、とてもとても、近寄れる場所ではない。

 だが、用事があるとなれば、都心にも行かなくてはならない。
 その日、石川良太は、都心を歩いていた。
 石川良太は、山の中で伸び伸び育ったわりには、背が低い。
 健康的な食生活をしていたわりには、太っている。
 つまりは、正確に記すと、ずんぐりむっくり。
 そんなに勉強をしていたわけでもないのに、眼が悪く、メガネをしている。
 石川良太は、こうした自分の体型にコンプレックスを持っていた。
 それが東京都心を歩いているのだ。
 スマートな地球へ迷い込んだ、ずんぐりむっくり星の宇宙人、という思いであった。
 忙しそうに人々が歩く街中を、教わった通りに進むと、眼の前に、シティーホテルが現れた。
 この2階のコーヒールーム『ハイデルベルグ』が、指定の場所であった。
 コーヒールームに入り、中を見渡す。
 会う相手は、加賀谷頼子という女性であった。
 もちろん、前に会ったことはない。
 電話で話したとき、石川良太は、おずおずと聞いた。
「あのう、何を目印に加賀谷さんを、探せばいいのでしょうか」
「探す必要はないわ。コーヒールームの中で一番の美人が私」
 壁際の席に、もの凄い美人が座っていた。
 外資系一流企業の上級幹部、といった雰囲気である。

 

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