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ラブストーリー

幸子 第五回 平成24年冬 永訣

   

平成24年1月、幸子がすい臓がんであることを告げられた。
私は昔のことで幸子の家族に迷惑をかけてはいけないと思ったが、旧友たちに後押しされ、初めて幸子の住む町、弘前に見舞いに出かけた。幸子はやつれてはいたが、優しい笑顔で私を迎えてくれた。その晩、ホテルに思いもかけぬ来客があった。幸子の母と兄だ。二人は今でも私のことを気にかけていてくれ、その気持ちに私は感謝した。二人は私にもう一度幸子を見舞うよう言ってくれた。
翌日、私は病院に幸子を見舞い、翌月、幸子は天国に旅立った。
56歳だった。

 

第6章 永訣

平成24年1月、ひどく冷え込む朝だった。

病院の自室で今日の予定を確認していると目の前の電話が鳴った。

「院長先生、三沢さんという方からお電話です。
 お繋ぎしてよろしいですか?」

事務室の町田さんからだった。

“三沢君から、なんだろう?”と思ったが、とりあえず電話を繋いでもらった。

「関口さん?悦子です。」

電話は三沢君の奥さん、旧姓木村さんからだった。

「ご無沙汰してます。今日は・・・」
そう言って私が要件を尋ねようとする間もなく、電話の向こうから、すすり泣く声が聞こえてきた。

「昨日ね、弘前に行ってきたの。
 幸子、幸子、癌なのよ。もう長くは無いらしいの。
 関口さんはお医者さんだからよく解るでしょう、すい臓癌なんだって。」

そこからは悦子さんの声が続かなかった。

「関口さん?山本です。
 あのね、いろいろあったけれど、弘前に行って。
 病院、教えるから会いに行って。もう永遠に会えなくなってしまうのよ。」

山本さん、旧姓橋本も一緒にいるようだ。

私は突然のことで、頭の中が真っ白になり、何も言葉が出て来なかった。

「関口さん、聞いているの?」

私はやっと声を出し、
「大丈夫です。聞いています。
 そうですか、でも、私が今さら顔を出すと・・・」
「何を言っているの。
 幸子さんと再会して、今は手紙のやり取りもあるんでしょう?」
「しかし、ご家族が」
「それは大丈夫だから、私達に任せておいて。
 いいわね。幸子さんも会いたがっているのよ。」

幸子が、幸子が、この間も手紙をくれたのに。御主人を4年前に亡くしたけれど、立ち直ってリンゴ園を立派に切り盛りし、昨年もそのリンゴを送ってくれたのに。

私は直ぐにでも見舞いに行きたかった。しかし、私が見舞いに行くことで、幸子の家族やいろいろな方に迷惑をかけると思い、返事をためらっていた。
しかし、三沢さん、山本さんに半ば押し切られる形で、明後日、弘前へ見舞いに行くことになった。

「ホテルも紹介してあげるから。
 詳しいことはまた電話するね。」

そう言うと山本さんは電話を切った。

〝すい臓癌〟。その言葉は私に重くのしかかった。

気が付いた時には手術ができない状態であることが多い。
昨年、幸子から届いた手紙には「少し痩せた」、「腰を痛めた」とあったが、もうその時にはすい臓癌の症状が表われていたのだろう。ひどく痛むのだろうか、どれくらい生きられるのだろうか、様々なことが頭をよぎった。

 

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