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幻影草双紙66〜誰?(後篇)〜

   

 あれは一体、誰だったんだ?

 

 同じ体型。
 同じ服装。
 ずんぐりむっくりの人影を、大学のキャンパスで見ることは、2度となかった。
 だが、別な場所で、見かけるようになったのであった。

 石川良太の生活範囲は、大学近辺に限られていた。
 それで十分に生活出来たのだ。
 せっかく東京近辺に来たのだから、新宿や池袋で遊んでやろう、という気もない。
 まだまだ、東京は、恐い。
 せいぜいが、新茜が丘駅のショッピングモールである。

 大学の〈自然同好会〉の仲間たちと、ショッピングモールへ行ったのが、そもそもの最初であった。
 ショッピングモールの通路は広く、洒落た専門店がならんでいる。
 通路を歩く人々も、洗練されていた。
 石川良太は、仲間たちと、『ベルベデーレ』というスイーツ店へ入ったのである。
 そこでモンブランを食べた。
 石川良太は、腰を抜かしてしまった。
(この世に、こんな美味いものがあったんだ)
 その後、石川良太は、一人でこの店へ来るようになった。
 来るといっても、頻繁に来るのではない。
 せいぜいが、月に2回くらいである。
 店の中で、一人でコーヒーとモンブランを食べるのではない。
 テイクアウトのマカロンを買うのである。
 マカロンを買い、ショッピングモールの広い通路にあるベンチに座り、袋を開いて、つまむ。
 至福のひと時である。
 これが、石川良太にとって、最大の冒険であり、最高の贅沢であった。

 それは、ショッピングモールへ一人で来ることを覚えてから、半年ほど後のことであった。
 ベンチで、マカロンを食べ始めたとき――。
 眼の前を、人が通った。
(あっ)
 石川良太は、驚いた。
 あの、ずんぐりむっくりの人物なのだ。
 服装も、石川良太のそれに、そっくり同じである。
 ショッピングモールの広い通路を、足早に歩いて行く。
 石川良太は、思わず立ち上がった。
 後を追おうとしたのである。
 どこへ行くのか、確かめたい。
 出来たら、声をかけて、話をしてみたい。
 とっさに、こう考えて、立ち上がったのだ。
 マカロンが、袋からこぼれた。
「おっと」
 マカロンを拾いながら見ると、あの人影は、通路を右へ曲がって行った。

 

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