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歴史・時代

ハヤブサ王 第2章 〜大和騒乱(4)

   

 オオヤマモリノミコの菩提を弔うために宇治川の屋敷に籠もるワキノミコ。そんなワキノミコのヒツギノミコとしての素質に疑問の声が上がり始める。そして、彼を貶める決定的な出来事が…。
 窮地に追い込まれたワキノミコのとった行動とは…。

 

 二人寝の寝台に、一人寝は辛い。あまりにも大き過ぎて、溺れてしまいそうだ。
 波にもまれて、寂しさの海底へと引きずり込まれていく。手を伸ばして愛しい人を求めるが、彼の人は香りだけを残してそこにはいない。
 イワノヒメは、何度も寝返りを打って夜を明かす。
 ワキノミコとオオヤマモリノミコの戦いが終わって、すでに一月が経っている。なのに、夫はまだ帰って来ない。
 オオヤマモリノミコの菩提を弔うために宇治の辺に屋敷を建てて、そこで暮らしているとか。やはり異母兄と戦い、その兄を処断するには相当な覚悟があったのだろう。
 ワキノミコの悲しみが痛いほど分かる。
 元来、ワキノミコは優しすぎる。ヒツギノミコという大役を受けてからは、強い男であらねばならないと相当無理をしてきたようだ。二人っきりになると、無理をしているのが良く分かる。
「だからこそ、そばにいて差し上げたのに…」
 ワキノミコは宇治の屋敷から帰ってはこない。
 女は、始めのうちは男を信じているものだ。
(オオヤマモリノミコ様の菩提を弔うために屋敷に籠もっていらっしゃるんだわ)
 とか、
(悲しみに耐え切れないんだわ)
 とか思うのだが、この状態があまり長く続くと、さすがに疑いたくなってしまう。
(もしかして、私が嫌いになられたのでは…。もしかして、いい人ができたのでは…。いいえ、そんなことないは、あの人は絶対に…。いえ、そうかしら、信じていいのかしら…)
 一度疑い出すと、どんどん深みに嵌まってしまうのである。
 上代の貴族の婚姻制度は、夫が妻の家に通い、同居しない「妻問い婚」が一般的であった。妻といっても書類などで正式に確約されていたわけではなく、あくまで男性が女性の屋敷に通い始め、男性の訪れがなくなれば関係が自然消滅してしまうような不安定なものである。そのため、多くの女性が恋に身を焦がし、必死になって男性を引きとめようとするのであった。それが、多く歌として残り、平安時代の女流文学へと発展していった。
 イワノヒメも、そんな不安を抱えながら寂しい夜を過ごさなければならないのである。

 

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