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ラブストーリー

幸子 第六回 平成24年夏 終章

   

平成24年夏、幸子が旅立ってから半年後、私は墓参りに弘前を訪れた。
幸子の子、幸一と由美が温かく迎えてくれ、幸子が過ごした家で幸一、由美の家族と食事を共にした。
そこで、天国からの幸子の声に促されるように私は幸子とのことを二人に打ち明けると、幸一と由美は受け入れてくれた。
私は幸子に自分の信じる道を進むことを誓い、弘前を後にした。

 

最終章 平成24年夏

午前11時少し前、電車は奥羽本線の弘前駅に到着した。
日差しは強いが東京とは違い、湿気が少なく心地よい暑さである。

〝津軽じょんがら節〟がホームに鳴り響いている。
8年程前からこの駅の発車メロディになったらしい。

駅を出ると、そこには幸子によく似た女性が待っていてくれた。
幸子の娘の由美だ。

「関口先生、由美です。今は吉田になりました。」
「こんにちは、ご無沙汰しています。
 きれいなお嫁さんになりましたね。」

彼女に初めて会ったのは、彼女がまだ中学生の時であったが、今は24歳。この6月に結婚していた。

「先生、弘前は遠いでしょう。お疲れになりましたか。」
「いや、大丈夫ですよ。空気がきれいですね。」
「主人が車で待っていますので、こちらへどうぞ。」

幸子が亡くなって半年、ようやく墓参りに来ることができた。葬儀の時はやはりいろいろ迷惑がかかるので遠慮した。

今回も最初は何も連絡せずに墓参りをしようとしたが、長年リンゴを送ってくれていることにお礼もしたく、ご迷惑かと思ったが澤田リンゴ園に電話したところ、「きっと父も母も喜びますので、是非、こちらにいらして下さい。駅に迎えにいきます。」とまで言ってくれたのだ。

「主人の吉田高志です。」

由美がご主人を紹介してくれた。日焼けした顔に笑顔が似合う好青年だ。

「先生、お墓に行ってから、リンゴ園にも寄って下さい。」

そう言って由美は私をお墓に案内してくれた。澤田家の菩提寺は弘前駅から車で15分程、岩木山がよく見える少し小高い丘の上にあり、そこに幸子は眠っている。

夏の日差しが優しくお墓に降り注いでいる。
墓碑には新しく幸子の戒名が刻まれていた。

  幸子、ご主人の側で安らかにお眠り下さい

私は墓の前に跪き、両手をあわせて祈った。

「先生、どうもありがとうございます。父も母も喜んでいますよ」

由美は笑顔でそう言ってくれた。

「もう12時ですね。リンゴ園でお昼にしましょう。
 兄も先生に会えるのを楽しみに待っています。」

お邪魔して本当にいいのか迷いはあったのだが、由美に手を引かれるようにして澤田リンゴ園に連れてこられた。

そこは周囲のリンゴ園に比べると大きくはないが、幸子の夫、義一が丹精込めて作り上げた木々が並んでいる素晴らしい園だった。

「先生、幸一です。ご無沙汰しています。」
「幸一君、こちらこそ、いつもおいしいリンゴを送ってくれてありがとう。お子さん、生れたんだってね。
 もう1歳になるのかな。お母さんが知らせてくれたよ。」

温かい歓迎だ。

仏間には義一さんと並んで幸子の写真が飾られていた。

私は仏壇に向かい、両手をあわせて二人が安らかに眠られることを祈った。

「さあ、先生、こちらでお食事にしましょう。」

由美が声を掛けてくれた。
幸一、由美の家族と一緒にテーブルを囲んだが、何か心が癒されるように感じた。きっと幸子が見守っていてくれているのだろう。

遠くからセミの鳴き声が聞こえてくる。

「東京と違って、こちらの夏は短いので、あの蝉の鳴き声ももう少しでお終いです。そして、お彼岸を過ぎると急に気温が下がり、あの山もあっという間に色が変わってきます。」

幸一が教えてくれた。

 

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