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SF・ファンタジー・ホラー

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 真夜中のマイ・フェア・レディ編

   

これからのことを思い悩む私・篠原みづきは夜の散歩に出かける。そこへフクちゃんからメールが。ここへ来て欲しいってことなんだけど……久しぶりに訪れた二番世界で、フクちゃんがくれた粋なプレゼントとは?
『真夜中のマイ・フェア・レディ』――綺麗は動力になる。

 

 
 そろそろ季節も移り変わり、九月に入ろうかというある晩のこと。私、篠原みづきはパソコンを前に自室で唸っていた。
 何をどうしても、面白くないのだ。
 書いては消し、書いては消しを繰り返し、途方に暮れてぼんやりする。そして慌てて書き出す。日々この繰り返しだった。
 この頃、私は新しい仕事を取ってくることもせず、ただひたすら丸紅出版から発行される雑誌連載のみに打ち込んでいた。月刊雑誌『月琴』は、純文学をはじめ、詩や批評などを取り扱っている正統派文芸誌だ。そこに恐れ多くも参入したわけだが、はっきり言って浮いていた。私が書く小説が、ジュブナイル少女小説だったからだ。もちろん、人気はない。
「あのさぁ、この連載なんとかならない? いっそエロ方向に振り切ってティーンズラブでも書いてどこか持ち込んでみれば? その方が売れるよ。最近需要多いから」
 などとオッケーを出したはずの担当編集・林さんにも言われる始末で、私は今後の身の振り方をわりと本気で考えていた。以前に仕事をしたことがある編集部からは、ティーンズラブを書いてくれという依頼まで来ている。ネットを開けば、ティーンズラブの文字ときらびやかな男女のイラストが踊っている。
 頬杖をついて溜息をつく。今日も規定量に達せず終わりそうだ。
 パソコン眼鏡を取ると、換気のために窓を開けた。一時期の熱風はどこへやら、九月間近の夜風は鈴虫の音色が聞え、秋を感じさせるさわやかさがあった。
 そのまま庭へとつづく古びたテラスに出ると、腰を下ろした。
 白状する。
 書けない。ティーンズラブも、ジュブナイルも。少女小説も。
 私は、小説を書くのが下手なのだ。
 私は時代の流れを読めずに、好きな物だけを書いている。好きな物を書けるのと、書いた物が時代や読者のニーズにマッチすることはまったくの別物だ。ニーズを読むセンスもない。
「…………」
 いっそ、ティーンズラブに振り切るか、純文系の少女小説を書いた方がいいんだろうか……。
 そういえば、最後に褒められたのっていつだっけ。
 褒められたいからやってるわけじゃない。
 それでも、思い出すのは小遣い稼ぎのような仕事ばかりだった。
 訳もなく悲しくなって、涙がこぼれそうだった。
「やめやめ。散歩行こう」
 机の上のスマホと財布を取ってポケットに入れる。そのまま庭に置いてある突っかけを拝借して、溜息をつきながらどこへ向かうともなく歩き出した。

 

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