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ノンジャンル

おじさんのジサゲ

   

僕のおじさんが「死亡」した。もっとも、実際に亡くなったかどうかは分からず、僕たちも九割方信じていないが、記録上死去した以上は、遺産をどう分け合うかが問題になってくる。

おじさんと仲がいいだけで、何の権限もなかった僕は、おじさんの書斎にある本や原稿の類しか受け取ることができなかった。

一見、何の価値もないようなものばかりで、沢山いる親戚全員が無価値と判断したものでもあったが、僕にとっては大切な思い出の品だった。

その上、山と積まれた原稿にはおじさんのとっておきの「魔法」がかかっていたのである……

 

「おおい、和博、もう入ってきていいぞ」
 部屋の外で本を読んでいた僕に、武文兄貴が声をかけてきた。
 そのつもりはないのだろうが、脅しつけるような迫力がある。いわゆるドスの効いた声と言えるだろう。
「遺品の整理はもういいの?」
 本を閉じた僕が反射的に問うと、部屋の中から顔を出してきた武文兄貴は、少し笑うような、呆れたような表情を見せた。
 端正な顔つきだが、髪を短く刈り込んでいるせいもあって、愛嬌はない。
「ああ。俺らも少々驚いているぐらいだ。あの爺さんなら、家の床が抜ける程度の金塊とかダイヤとかを持っていると思っていたんだが、この通りだよ。どうやら俺たちには、見せ金を払ってそれっきりらしいな」
 武文兄貴が指差した部屋の中は、つい先日「死去」した人の部屋だと納得できる程度には清潔だったが、僕たちのおじさんの居室だとは信じられないぐらいに簡素だった。
 多分、僕ら身内じゃなく、仕事関係の人だったら、絶対に信じないだろう。

黒田 親一。

 この部屋の持ち主で、ちょっと知られたやり手の不動産屋だった。僕にとってはおじにあたる人でもある。
 いや、「ちょっと知られた」という表現は、やや過少かも知れない。
 実際、おじさんの名声は、この町では響き渡っていて、マンションやアパートの一室だけでなく、お金を借りようという人も大挙して訪れるぐらいだったのだ。
 普段から札束を詰め込んだ札束を持ち歩き、高級外車を乗り回す生活を送っていた彼は、いつでも輝いて見えるような存在だった。

 

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