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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 4

   

逮捕されたメグミ。
どうして事件を起こしたのか。刑事の梅澤が知ったのは二年前メグミが起こした傷害事件だった。
アイザワ メグミの過去と現在。
『鏡合わせの少女 No.1』配信

 

鏡合わせの少女 No.1

 シオリの暴行事件からしばらく経った日のことだった。あたしは警察署にいた。
 昼過ぎ、家にたくさんの警官が訪れた。
 玄関先でなにやら言われて、同行を促され、頷いた。
 連行しようとする警官に、母親は狂ったように喚いた。原因であるあたしに掴みかかろうとして警官に止められていた。
 玄関からバンまで繋がれた青いビニールシートの向こうで、たくさんのフラッシュが焚かれる。顔を隠され、寝間着のままあたしは黒いバンに乗った。バンに乗った大人は全員が前を向き、隣に座った婦警もこちらを見なかった。
 バンが揺れ動くたびに、あの日以来、何度も想定した状況と今のどこが違っているのかを考えた。特に違いはなかった。
 計画はザルだったし、処分したとはいえ洋服も、フルフェイスのヘルメットだってある。なにより、ホテルで比野県警の警官とすれ違ったし、ピアスをワンルームマンションに落としてきた。
 見つからないわけがなかった。
 警察署に到着すると、取調室ではなく応接室に案内された。
 正面に厳つい刑事が腰掛ける。
「アイザワ メグミさん、だね」
 確認のように調書に記された名前を読みあげられる。
 頷く。
 あの日以来、ひどく頭が痛くてぼんやりしている。
 冷房が効きすぎているのか、部屋は寒くて凍えそうだ。
 刑事が何か喋っている。あたしにはまったく意味をなさない言葉の列だった。
「……シオリはどうなりました? それからあのマリって子も。……全部お話ししますから答えてください」
 突然、遮られた刑事は溜息をついた。
「……二人とも無事保護されて、入院してるよ」
「そうですか」
 強面の刑事は、威嚇するようにぐいっとこちらに身を乗り出してきた。ワイシャツから煙草と缶コーヒーのにおいがする。
「なあ、お嬢ちゃん。なんだってあんた、あんなことやったんだ? 男どもも悪いが、お嬢ちゃんのしたことは人殺し一歩手前だ。男どもは全員無事だったから良かったが……世間様はこの事件で、男の方を見ないぞ。あんたの性格や家庭環境を暴露して邪推する」
「あたしは……ああしないといけなかったんです」
 刑事のそこだけ日焼けしてない、白くなった左薬指の痕を見ながら言う。刑事は怪訝な顔をした。外で聞える蝉の音がいっそう酷くなった。わんわんと耳元で聞えてうるさい。
「そりゃなんでだ?」
「愛していたからです」
 刑事が鼻白んだ。
 それから何を言われても、あたしは答えなかった。
 あたしの脳裏を駆け巡っていたのは、シオリに助けられたあの夏の日のことだった。

 

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