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撮差(さつさ)社会

   

以前書店をやっていて、今は小さな古本屋を経営する西口は、電車の中で、一人の女性を発見する。

彼女こそは、かつて経営していた書店を万引きで潰した張本人だった。

怒りで震えていた西口は、彼女が連れの男性と、万引きの「成果」を自慢げに語っているのを耳にする。キレてしまった西口は、以前証拠を押さえられなかった悔しさもあり、反射的に彼女の顔を携帯のカメラで撮影したのだが……

 

「はあ、はあ、ふう……」
 出したくもないのに、ぜいぜいと荒い息が口をついて出る。
 顔から汗が噴き出てくるが、人が詰まった電車の中では満足に拭くことも難しい。
 多分、頭のてっぺんからは湯気すら出ているだろう。
 鏡を見ないでも分かるぐらいの暑苦しさだ。
 しかし、何とかしてリュックと左手の紙袋に詰まった本日の成果は持ち帰らなければいけない。
 丸半日、足を棒にして、何軒もの古書店を回って手に入れたのだ。
 土地勘のない場所で地図だけを頼りに進んでいくのは正直辛いが、地元ではこういう手は使えない。
 何しろ向こうも商売、同業者の立場を楽にするような真似は、このご時世にはなかなかやれない。
 私は、小さな古書店を経営している。
 と言っても、四十も半ばを過ぎてから一年ほどしか経験はないので、玄人と呼べる域には達していない。
 実入りは少ない。最近の出版不況のために、そもそも出版される新刊も少なくなっているし、紙の書籍や雑誌に価値を見出す層も減ってきている。
 電子出版だと、出版社ではない第三者が中古を販売するという概念がそもそも生まれていないわけで、「新刊じゃなくて古本にしよう」とはいかない現状では、目利きが甘い私が大儲けできる余地はそもそもない。
 だが、今更何の経験もない中、平社員としてどこかに入るこという選択肢も取ることはできない。
 早い話、完全に行き詰まってしまっているというわけだ。

 

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